妖怪と人間を「モノ」にする社会システム(『妖怪ウォッチ』に魅せられる子供たち③-1)

3.ポストモダンと『妖怪ウォッチ』

3.1.妖怪と人間を「モノ」にする社会システム

ジャン・ボードリヤールは『消費社会の神話と構造』という著作で、この豊かで貧しい社会について方っている真の豊さについて語っている。彼によれば、豊かさは、社会的論理を適用して見なければならない。ここでいう社会的論理とは、社会性、関係性を意味する。現代社会は物質的にはどの時代よりも豊だが、かつてのない貧しさに苦しんでいるのも事実だ。人と人の関係性が薄くなっている現代社会において、「自然」は「資源」として認識されるようになり、人間のための「手段」や「道具」に転落した。両者の間に信頼関係が生まれることはない。資源になってしまった自然は有限なものとなってしまい、必然的にゼロサムゲームを呼び起こすからだ。この有限性は現代人を圧迫し続けている。

他人が自分のものを取る前に他人のものを奪う。自分の分が十分であったとしても、物の持つ有限性は現代人の欲望を掻き立たせ、他人のものを限りなく欲するように仕向けてくる。物質的面で豊かになった人間がモノによって支配されている。モノを相手にして生きる事に偏った人間は機械的人間になっていく。

©Roy Export SAS i
©Roy Export SAS i

科学的理性が生み出した大量生産の技術は、生産のメカニズムを作り、人間の必要ではなく生産の必要に応じで生産をし続ける。必要以上の欲望が貧富格差を作り出し、競争の敗北者は人生の敗北者となってしまう。売れ残って、廃棄処分しなければならない荷物となってしまう人間に最早人間の尊厳云々といった類のものはない。それが近代末期の社会に流行っていた「剰余人間」という言葉だ。「剰余人間」は社会の残り腐ったモノである。経済性で価値がないからだ。

現代人の征服欲は、信頼の不在によるものだ。それは未開(原始)社会を考えてみると明瞭である。原始社会で人は自然との信頼関係を結んで生きている。彼らは自然から必要な分だけをもらう。彼らは必要な分だけ自然が(あるいは神が)与えてくれると信じていた。自然は無限なもので、資源のように有限なものではない。他者は競争の相手ではなく、必要に応じては「私」と物々交換をしてくれたり、貸してくれたりする相手となる。ここで助け合える相手としての関係性が生まれる。

私たちが生きる現代社会は資本主義のメカニズムに支配される消費社会である。『妖怪ウォッチ』においてケータと妖怪たちが結ぶ関係は「ともだち」ではなく、「支配者と被支配者」もしくは、「消費者とモノ」の関係だ。かつての「妖怪」というものは、自然への敬いから生まれたものだった。しかし、自然を失った今日の人間にとって妖怪というものは、それが本当に特別な力を持っていたとしても恐れる対象になりえない。自らモノ化した人間には妖怪もモノになりえるからだ。

『妖怪ウォッチ』も同じだ。ケータは自分のともだち妖怪を利用して、新しい妖怪と戦わせ(説得か力づくし)、その妖怪を倒す。負けた妖怪はケータの「ともだち」になり、その証となるのが「妖怪メダル」だ。このサイクルは現代消費社会を連想させるところがある。

©l5/ywp・tx
©l5/ywp・tx

ケータにとって重要なのは「妖怪メダル」を「集める」ことであって、それは妖怪を利用するためである。妖怪はモノとして存在し、他の妖怪と戦うことを強いられる。妖怪同士の戦いに勝者はいない。勝者はメダルを得るためにこの競争システムを作ったケータのみだ。

だが、唯一の勝者に見えるケータさえも勝者とは言えない。彼は目的意識もなく、ただメダルを集めているだけだからだ。彼は彼の意志ではなく妖怪執事と名乗るウィスパーに強いられて妖怪メダルを集めるようになった。そうするとウィスパーが勝者に思えるかもしれないが、彼は物語の装置として存在するのみなので、この物語の中には妖怪の競争システムを通して何か「得している」ものはいない。勝者は物語の外にある作り手のみだ。現代人の生きる目的が外部的な原理に従うもので、社会システムの論理に何の疑問も持たず、機械的に従って働く、或いは生きるのと同じである。『妖怪ウォッチ』の世界と同様、現代社会の真の勝者は「資本主義の原理」というシステムなのである。


<目次>

1.『妖怪ウォッチ』の異例的なブーム
2.『妖怪ウォッチ』が物語る「ごく普通」に覗える全体主義
3.ポストモダンと『妖怪ウォッチ』
3.1.妖怪と人間を「モノ」にする社会システム
3.2「妖怪のせいなのね、そうなのね♪」という台詞のポストモダン的側面
4.「全体」を脅かす存在、「妖怪」とポストモダン主義(①)(②)
5.なぜ「ウォッチ」と「メダル」なのか
6.「ともだち」の背後にある暴力と権力 

妖怪と人間を「モノ」にする社会システム(『妖怪ウォッチ』に魅せられる子供たち③-1)” への7件のフィードバック

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