群像評論賞に応募して予選通過した評論を全文公開いたします。
この評論を書いたきっかけは、昨年の冬、偶然耳にしたアニメ『妖怪ウォッチ』の主題歌でした。驚愕せざるを得ない歌詞は、『妖怪ウォッチ』というアニメに興味を持たせるに十分でした。こんなアニメが無防備に子供たちにさらされていいのか疑問を抱いたのです。
約2週間で書き上げたもので至らない点が多くあります。ですが、子供たちに大人気な「妖怪ウォッチ」というアニメについて考えていただきたいと思いまして、ブログに載せることにしました。
『妖怪ウォッチ』に魅せられる子供たち
―エンターテインメントとなった全体主義と資本主義の暴力―

1.『妖怪ウォッチ』の異例的なブーム
2015年3月現在、日本の子供を最も魅了させている話題の一つは言うまでもなく『妖怪ウォッチ』だ。徹底的に仕組まれたクロスメディア戦略で作り込まれた『妖怪ウォッチ』は、テレビアニメメーション・ゲーム・映画などを網羅して脚光を浴びている。2014年6月に行われたNHK放送文化研究所の「幼児視聴率調査」の発表によると、アニメーション(以下アニメ)『妖怪ウォッチ(テレビ東京)』は26.6%を記録し、幼児全体では6位で、中でも5才から6才の子供の間では不動の1位を占めている。[1]
このテレビアニメの原作となったのは小学館が2012年12月から『月刊コロコロコミック』の紙面を借りて連載を始めた漫画『妖怪ウォッチ』をゲームにしたものだ。この『妖怪ウォッチ』ゲームソフトはニンテンドー3DS用である。ゲーム『妖怪ウォッチ』は、アニメーション『妖怪ウォッチ』の人気と共に売上を伸ばし、2014年5月には100万の販売本数を突破した。その人気にのってバンダイが販売を開始した妖怪ウォッチ関連のグッズは、全国のおもちゃ売り場で売り切れが続出した。中でも腕時計のおもちゃ「DX妖怪ウォッチ」の場合、元の価格が税抜き3200円である反面、ネットオークションで数万円の値がついているという。[2]

2014年12月に放映された劇場版アニメーション映画『妖怪ウォッチ 誕生の秘密ニャン!』は、公開2日間でその興行収入が16億2,889万3,000円を記録しており、東宝の初日2日間興収における新記録を残し[3] 、公開2週間余りで興行収入が50億円を突破した記録を保有している 。[4] アニメの主題曲「ゲラゲラポーのうた」のCDは、5月12日付のオリコン週間ランキングで4位を記録した。 [5]2014年度オリコンの「BOOKランキング」においても妖怪ウォッチの2冊のゲーム攻略本が1位と4位を記録している。[6]
また2014年度アニメ流行語大賞においてでも、コマさんの口癖「もんげー」が銀賞(第2位)、「ようかい体操第一」の歌詞の一節「妖怪のせいなのね」が銅賞(第3位)を受賞した。[7] また2014年3月中旬、東京駅一番街にオープンしたナムコが運営するキャラクターイベントショップ「妖怪タウン」は予想をはるかに上回る来客により、オープンからわずか2日で営業を一時停止するほどだという。[8]
異常なくらいの大ブームだ。恐ろしいことにこのブームはまだ始まったばかりのことである。今、日本は『妖怪ウォッチ』の主人公ケータの口癖「これは絶対妖怪の仕業だ!」という呪文にかけられて「責任回避」を正当化している異常な現象が蔓延している。悪いことをしてもそれは「妖怪の仕業」なので罪悪感もなければ責任感もない。悪いのは自分でないのだ。今、日本は知らず知らずの中に『妖怪ウォッチ』の吹き散らかすウィルスに感染されている。
本稿の目的は『妖怪ウォッチ』(中でもテレビアニメ『妖怪ウォッチ』)が映し出す日本の今を観察し、児童アニメとして、また大衆文化としての『妖怪ウォッチ』の危険性を指摘するためのものである。素晴らしいマーケティング戦略で作られたこのアニメの人気はまだまだ続くだろうという惨憺たる現実を目前にして、この問題を起こしている「ウィルス」を「やっつけ」たいと思うからだ。ウィルスから身を守り、すでに感染した人を治療するためのワクチンを作るためには『妖怪ウォッチ』の得体を知り尽くし、今の日本を知り尽くす必要がある。
[1] http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2014_10/20141005.pdf
[2] http://toyokeizai.net/articles/-/39526
[3] http://www.cinematoday.jp/page/N0069351
[4] http://eiga.com/news/20150105/20/
[5] http://toyokeizai.net/articles/-/39526
[6] http://www.oricon.co.jp/entertainment/ranking/2014/bookrank1201/
[7] http://getnews.jp/archives/711468
[8] http://toyokeizai.net/articles/-/39526
<目次>
1.『妖怪ウォッチ』の異例的なブーム
2.『妖怪ウォッチ』が物語る「ごく普通」に覗える全体主義
3.ポストモダンと『妖怪ウォッチ』
3.1.妖怪と人間を「モノ」にする社会システム
3.2「妖怪のせいなのね、そうなのね♪」という台詞のポストモダン的側面
4.「全体」を脅かす存在、「妖怪」とポストモダン主義(①)(②)
5.なぜ「ウォッチ」と「メダル」なのか
6.「ともだち」の背後にある暴力と権力
[…] 1.『妖怪ウォッチ』の異例的なブーム 2.『妖怪ウォッチ』が物語る「ごく普通」に覗える全体主義 3.ポストモダンと『妖怪ウォッチ』 3.1.妖怪と人間を「モノ」にする社会システム 3.2「妖怪のせいなのね、そうなのね♪」という台詞のポストモダン的側面 4.「全体」を脅かす存在、「妖怪」とポストモダン主義(①)(②) 5.なぜ「ウォッチ」と「メダル」なのか 6.「ともだち」の背後にある暴力と権力 […]
[…] 1.『妖怪ウォッチ』の異例的なブーム 2.『妖怪ウォッチ』が物語る「ごく普通」に覗える全体主義 3.ポストモダンと『妖怪ウォッチ』 3.1.妖怪と人間を「モノ」にする社会システム 3.2「妖怪のせいなのね、そうなのね♪」という台詞のポストモダン的側面 4.「全体」を脅かす存在、「妖怪」とポストモダン主義(①)(②) 5.なぜ「ウォッチ」と「メダル」なのか 6.「ともだち」の背後にある暴力と権力 […]
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