「全体」を脅かす存在、「妖怪」とポストモダン主義(②)
やっつけなければならない妖怪の幾つかの例をあげると、「メラメライオン」、「しゃれこ婦人」、「ナガバナ」である。「メラメライオン」は『妖怪ウォッチ』の中の妖怪の中で最も私の興味を引く妖怪である。「メラメライオン」は「やる気の押し売り」を引き起こす妖怪で、やる気が有り余るがゆえにメラメラしているライオンの姿をした妖怪である。
メラメライオンは、野外授業をするケータにとりついたため、ケータはやる気に満ちて掃除係を「全部やります!」と言ってしまうはめになる。その次はカンチにとりつき、熱く燃え上がらせる。この時のウィスパーとケータの会話を紹介しよう。
ウィスパー : 「そんなにがんばらなくても・・・」というときでも
とりついた人間を熱く頑張らせてしまう面倒くさい妖怪です
ケータ : それは面倒くさそうだよね
ウィスパー : 今までケータくんにとりついてたんですよ!
ケータ : え?!
ここにケータとカンチのもう一人の友達、クマが現れ、次のように言う。
クマ : どうするんだよ!お前がいきなり熱苦しくなったせいで
カンチまで熱くなっちゃじゃねえか!
(手をグーにして怒った顔で)
なんでいちいち面倒くさい係りを引き受けたりしたんだよ!
(呆れた顔で)誰もやりたくねえのによ…!空気読めって!
メラメラという妖怪を取り除く場面も意味深いので紹介する。

ケータ : ひも爺、お願い!メラメライオンに言ってやって!熱苦しいの
とかいらないからって!
ひも爺 : やってみよう
(メラメライオンに近づいて)
よう、メラメライオン。みんなをそんなに頑張らせるな。
人生は長いのじゃから。
メラメライオン:(熱く燃え上がりながら)メラメラ!
ウィスパー : たった一度の人生、悔いのないように頑張るべきですと
言っています。
ケータ :(迷惑そうな顔をして) でも何を掃除を頑張らなくても…
他のこと頑張るからさ。
メラメライオン: メラメラ!
ウィスパー : 今の一瞬一瞬を大事に生きろーと言っています。
ケータ : 困ったな…
ウィスパー : とことん熱苦しいですな

私がおもしろいと思ったのは、以下の2つの理由においてだ。
①メラメライオンは「メラメラ!」しか話せず、通訳が必要。
②一生懸命に頑張ることは迷惑な行為だと見なされる。
メラメライオンは「メラメラ!」しか言えない。いろいろな話をするのだが、「メラメラ!」としか聞こえてこないため、必ずウィスパーが通訳をしてくれる。『妖怪ウォッチ』にはさまざまな妖怪が登場するが、言葉が話せない―あるいは通じない―妖怪は、「メラメライオン」のみである。その理由として②の考えが挙げられる。昨今の社会は何でも一生懸命に頑張る人は迷惑な存在である。特に子供の世代でそのような傾向が広まっている。「皆と同じ」を目指す社会において、メラメライオンのような存在は迷惑な「出る釘」である。よってメラメライオンにとりつかれて熱くなった子供は悪口を言われ、非難されるのだ。全体の雰囲気と逆らって一人で一生懸命に熱く燃え上がる人は、頑張りたくない集団の雰囲気を損なう存在だ。
全体主義がメラメライオンのような要素を嫌うのは当然だ。だからメラメライオンの熱い語りは、「メラメラ!」という解釈不能な叫びになってしまう。誰もが理解できない(ある意味、強いて聴こうともしない)叫びとなってしまってもメラメライオンは常に熱い。

「妖怪しゃれこ婦人と妖怪ジミー」で初登場した「しゃれこ婦人」は、派手なファッションのおしゃれが大好きなお婆ちゃん妖怪だ。気に入った人間にとりついては派手なファッションをさせてしまう。授業参観の準備をするケータの母に取り憑いて、プリンセス風の服を着せたり、ケータによって呼び出されたひも爺にも取り憑いておしゃれなハワイアンテイストの服を着せてしまう。おしゃれに着飾ったひも爺は服装だけでなく行動やしゃべり方も若返って元気になり、どこか行ってしまう。これほど強力な妖怪はどのように倒されて、「ともだち」になれるのか。悲しくも、妖怪ジミー(地味にさせてしまう妖怪)にとりつかれてだ。
ジミーにとりつかれたしゃれこ婦人は、地味な色の服に変えられ「調子乗ってすみません…」と泣きながらメダルを残す。痩せこけて骸骨の顔をしたしゃれこ婦人は、ディズニーのお姫様のような服を着るのが好きな妖怪である。多くの人は年寄りのかわいい服装を嘲笑う傾向がある。「三十振り袖」という理由で悪口を言う。私たちが作り上げた「おばあさんらしい服」にそぐわない服装をするのは変わった人の仕草だ。しゃれこ婦人のようにおしゃれしたくても周りの目線のせいで地味な服を選ぶ年寄りが多く存在するのだろう。個人の嗜好の領域であるはずのファッションさえも、社会的な枠組みによって規定されてしまう。

第15話のナガバナもそうだ。話好きでやたら話が長くなるこの妖怪も「うざい」とされる。ケータによって呼び出された妖怪、忘れん坊にとりつかれ、しゃべりたいことを忘れるようになる。しゃべりたいことを忘れたナガバナは、「しゃべりたいことを忘れてしまったん…しゃべりができない我なんて、妖怪として、何の価値もありへん」と言って夕日の中を歩き去っていく。
長話をするのが好きな妖怪(人)から話のネタを忘れさせるというのは、全体に合わせるためにその個性を抹殺しようとした暴力に他ならない。また、現代人は毎瞬間おびただしい情報に晒されていながらも意外と接した途端忘れてしまう。網の中に降り注がる水のように何も記憶に残らない場合が多い。自分が夢見た未来や希望などもいつの間にか忘れてしまい、思い出す事さえなくなってしまう。情報もそうだが、物も早いスピードで忘れられ、新しいものに入れかわれる。
これは情報社会という名で行われている暴力だ。妖怪の倒し方も簡単で、妖怪を倒せば、妖怪にとりつかれていた人たちは「普通」に戻る。また敗北した妖怪はメダルを渡しながらケータの友達(駒)になってくれる。なんと恐ろしい物語なのであろう!
<目次>
1.『妖怪ウォッチ』の異例的なブーム
2.『妖怪ウォッチ』が物語る「ごく普通」に覗える全体主義
3.ポストモダンと『妖怪ウォッチ』
3.1.妖怪と人間を「モノ」にする社会システム
3.2「妖怪のせいなのね、そうなのね♪」という台詞のポストモダン的側面
4.「全体」を脅かす存在、「妖怪」とポストモダン主義(①)(②)
5.なぜ「ウォッチ」と「メダル」なのか
6.「ともだち」の背後にある暴力と権力
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