『ノア―約束の舟(Noah),2014』感想|これから映画を見る人のために

『ノア―約束の舟』あらすじ

ある夜、ノアは眠りの中で、恐るべき光景を見る。それは、堕落した人間を滅ぼすために、すべてを地上から消し去り、新たな世界を創るという神の宣告だった。大洪水が来ると知ったノアは、妻ナーマと3人の息子、そして養女イラと共に、罪のない動物たちを守る箱舟を作り始める。やがてノアの父を殺した宿敵トバル・カインがノアの計画を知り、舟を奪おうとする。壮絶な戦いのなか、遂に大洪水が始まる。空は暗転し激しい豪雨が大地に降り注ぎ、地上の水門が開き水柱が立ち上がる。濁流が地上を覆う中、ノアの家族と動物たちを乗せた箱舟だけが流されていく。 閉ざされた箱舟の中で、ノアは神に託された驚くべき使命を打ち明ける。箱舟に乗ったノアの家族の未来とは? 人類が犯した罪とは? そして世界を新たに創造するという途方もない約束の結末とは──?(公式ホームページから引用)

<この映画を一言で言うと…>

ノア物語のダーレン・アロノフスキーならではの再解釈

 

<こういう人におすすめ!>

  1. 聖書の内容を知っている人(聖書を知るか知らないかで映画の見方が変わるはず)
  2. 心理描写が優れた映画が好きな人
  3. 人間そのものを考えたい人

<こういう人には不向きかな・・・>

大きいスケールが見せてくれる迫力だけを期待する人は、がっかりしてしまうかもしれない。

 

<この映画は・・・>

(C) MMXIII Paramount Pictures Corporation and Regency Entertainment (USA) Inc. All Rights Reserved.
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1.視覚的な楽しみと物語としての良さが両方そろった映画

→『ブラックスワン』で有名なアロノフスキーは、映画のキャラクターを通して、人間そのものを考察する監督である。彼は、堕落した人間世界の中で、神の声に従って生きる預言者でありながらも人間的な過ちも起こ得るノアの姿を通して、観客に善悪の問題や正義、希望について考えさせる。

視覚的要素も欠かせない。一般的にビジュアルな面に力を入れた映画はストーリーが貧弱であることが多いが、この映画は映像としても物語としても満足できる映画だ。

 

2.マシュー・リバティークのよさが伝わる

→アロノフスキーの長年のパートナーであるマシュー・リバティークが今回も撮影監督を務めた。彼は短編映画「プロトゾア(Protozoa)」から『π Pi』、『レクイエム・フォー・ドリーム』、『ブラック・スワン』、そして今回の作品に至るまでアロノフスキーの数々の作品で撮影を担当した。カラオケ映像を作ることが撮影監督としての初の仕事だったというリバティークは、アロノフスキーに出会って転機を迎えたという。リバティークは、幻覚的なイメージを映像化することに長けている。彼は、アロノフスキーが作り出そうとする人間の複雑な内面とその中での分裂する自我うや不安を、誰よりも革新的かつ感覚的に映像化できる撮影監督であるのだ。

 

3.ファンタジーの世界を現実的に作り出そうと試みている

→CGに依存する最近の映画とは違って、現実の空間と物を使って演出している点もおもしろい。もちろん大洪水のシーンや箱舟に集まる動物たちはCGの力を借りているが、できる限り実在するものを使うことによって、映像にリアリティを持たせようとするアロノフスキーのこだわりが感じられる。

アート・ディレクターを務めたのは、『ライフ・オブ・パイ』のアート・ディレクターであるダン・ウェブスター。彼は歴史的資料がないノアの時代を想像力で作り出し、大自然と新しい箱舟のイメージ(従来私たちが考えてきたイメージとは異なる)から身にまとう衣装と小物まで私たちの目を楽しませてくれる。

 

4.映画の中で創造される「創世記の時代」

→ノア物語といえば古代イスラエルを背景としているはずなのに、登場人物の服や髪型は、古代のものではない。古代のものに見えるものもあれば、中世時代のもののようなものもあり、現代の要素もある。ウェブスターは豊かな想像力を持って、聖書に書かれていない創世記の時代背景を美しく作り上げる。しかしそれは、古代世界を充実に描こうとする試みではなく、時代概念を壊す方向へと向かっている。

いろいろな時代がミックスされたかのような服や小物は、ただのごちゃまぜというよりは、古代、中世、現代などの枠組みを超えた新しい時代設定であるように思える。人間の時代には属さない独特な「創世記の時代」を表現しているのだと考える。それは聖書の時間は永遠であることを表現しているようにも思われる。あるいは、永遠に繰り返される創世記の出来事を意味しているのかもしれない。カインのアベル殺しは長い歴史に間で繰り返されてきたし(戦争や人間同士の葛藤を思い出してみよう)、平和を守ろうとするノアの歴史も絶えずに続いてきた。創世記の時代は、はるか昔でありながら、現在であり、そして未来でもある。映画の中で表現される時代背景にとらわれない衣装や小物は、ダン・ウェブスターとアロノフスキーの「創世記の時代」創造の試みではないだろうか。

 

(C) MMXIII Paramount Pictures Corporation and Regency Entertainment (USA) Inc. All Rights Reserved.
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5.演技力と大衆性両方そろった豪華なキャスト!

→ノアとナーム夫婦は、それぞれ『グラディエーター』、『ビューティフル・マインド』でアカデミー賞を受賞したラッセル・クロウとジェニファー・コネリーが担当した。また数々のアンソニー・ホプキンスが、ノアの祖父を演じる。
若手俳優も豪華で、世がときめくエマ・ワトソンやローガン・ラーマン、ダグラス・ブースなどが揃った。エマ・ワトソンやローガン・ラーマンの新しい一面が見れるだろう。

 

6.聖書と比較しながら見るともっとおもしろいし深い!

→この映画は、聖書の人物「ノア」を主人公にしたフィクションである。 聖書をハリウッド的に脚色した物語であり、聖書の記述と異なる部分も多く見受けられる。聖書を再解釈したこの映画がどれほど聖書のメッセージに充実しているかを考えながら映画を見ると面白いだろう。
(これについては近々詳しく書くつもりですが、聖書の記述に関しては資料集にアップしておきました。)

 

(C) MMXIII Paramount Pictures Corporation and Regency Entertainment (USA) Inc. All Rights Reserved.
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7.「ノアの箱舟」の話ではなく、人間「ノア」の話

→日本語のタイトルは、『ノア―約束の舟』ですが、原題は、『ノア(Noah)』だ。私は、この映画のタイトルに、「約束の舟」を付け加えたことに大いに不満を感じている。この映画にとって重要なのは、「神によって約束された舟」ではなく、ノアという一人の人間だからだ。

映画は、預言者であり第2のアダムであるノアの偉大さを語るための映画ではない。むしろ、創世記の物語を「人間」を中心において解釈し、ノアの人間的な側面に注目する。監督は、一人の人間として、そして預言者としてノアが背負った使命の重み、葛藤を描いている。

ノアを演じるラッセル・クロウの演技もすばらしい。彼は、アロノフスキーによって生まれた「人間ノア」と一体となるような演技力で、自らの体を持って人間ノアの内面を映し出す。それはかなり吸引力のあるもので、物語が展開される中でノアの苦悩、苦しみを共に味わっている自分を見つけるだろう。

 

8.「人間」について考えさせてくれる―トバルカインとノアの間のどこかにいる人間存在

→文明を築いたカインの子孫であるトバルカインは、人間の汚い欲望を表している。反面、預言者であるノアは善なる義人として描かれる(映画の後半に家族を殺そうとする部分も出ているが、それはノアが神の意志を誤って理解したからである) 人間の自由意志を欲望のためだけに使い、自分がほしいものを手に入れるためなら殺し合うことを選ぶトバルカインと彼を従う人たちの姿は、私たち人間が陥りやすい過ちを端的に示している。人間という生き物は他の生き物とは違って、単なる生存と種族保存のため以外の本能を持っている。欲望と言い換えても大きな間違いのないこの本能があるからこそ、人間同士の集まりである社会には罪というものが生じる。なぜならば神から与えられた「自由意志」をもって人間が自分の欲望に従ってある行動を選択し実行する際、その行動は、他人という存在の欲望や権利を損なうことがあるからである。

欲望の声にのみ従うトバルカイン、そして世にあるすべての神の被造物を愛し、自分の欲望を捨てて神の声に従おうとするノア。私たちは、その間のどこかにいる。

 

 

『ノア―約束の舟』上映映画館

<映画概要>

【映画名】 ノア―約束の舟(原題:Noah
【監督】 ダーレン・アロノフスキー
【脚本】 ダーレン・アロノフスキー、アリ・ハンデル
【製作】 ダーレン・アロノフスキー、アーノン・ミルチャン、メアリー・ペアレント、スコット・フランクリン
【製作総指揮】 クリス・ブリガム、アリ・ハンデル
【製作】 リージェンシー・エンタープライズ
【配給】 パラマウント映画
【出演者】
ノア ・・・ ラッセル・クロウ
ナーム(ノアの妻) ・・・ ジェニファー・コネリー
メトシェラ   ・・・ アンソニー・ホプキンス
トバルカイン  ・・・  レイ・ウィンストン
セム ・・・ ダグラス・ブース
ハム ・・・ ローガン・ラーマン
ヤペテ ・・・ レオ・マクヒュー・キャロル
イラ  ・・・ エマ・ワトソン

『ノア―約束の舟(Noah),2014』感想|これから映画を見る人のために” への5件のフィードバック

  1. 『ノア 約束の舟』映像の迫力とか、かっこいいとか、可愛いすごいとか聖書の解釈とかにカンケーなく、今の人間種こんなのでいいの?他の生き物は何にも害することなく存在するけど、聖書の時代じゃなく、今ですよ今、キリスト教の国だけじゃなく日本もですよ、人間種は地球で必要ですか?って話です。

    1. @thisisaozora様

      コメントありがとうございます。そして返信が遅くなってすみません。
      そうですね。私はクリスチャンであり、かつ聖書の物語を基に作られた映画なのでついクリスチャンの物差しで映画を見てしまいました。
      人間という生き物はとても大きな罪を犯しながら生きていますね。私自身もそうですが…
      ですが、映画の結末に、私は人間種の希望を見てしまいます。地球において必要な存在であり、変わっていけるという希望を。
      それもクリスチャンの独断的な考えと言えばそうかもしれませんが、私の考えはそうです。

  2. 人間の種が地球に必要かとは関係ない。一応、人間としての私たちに求められること、それは人間存在の存続は人間にとって絶対的善であること。

  3. 大事なのは地球に人間という種が必要化やいないかの問題ではなく、私たち人間にとって何よりの善とは人類存続、繁栄だと思います。勿論、人間存在の前提としての地球です。

    1. 匿名様

      そうですね。地球にとって人間という存在は必要ではないかもしれません。
      おっしゃる通り、人間の繁栄は、私たち人間にとっての善であるのかもしれません。
      ですが、聖書の考えによると、神は人間を必要としており、神の創造行為は神の深い愛の結果です。そして人は、神と人格的な関係を結ぶために作られ、神が造った美しい世界を支えるための使命を持っています。なので、人間自らが滅亡に向かうことは、愛に満ちた神の創造行為を台無しにすることでもあります。恐らく私自身クリスチャンなのでクリスチャンの物差しで映画を見ていたと思います。

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