「芸術は一体何であるか」を問う「ブリロ・ボックス」|アンディ・ウォーホル

最もアメリカらしい芸術家「アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)」の価値

  皆さんは、「アメリカ」という単語を聞くと、何が思い浮かびますか?私は、コカ・コーラやマクドナルド、ハリウッド、またはピンナップガールのイメージが頭に浮かびます。もしその中で一つのイメージを選んでアメリカを説明するとするならば、私は迷わず「アンディ・ウォーホル」の絵を挙げるでしょう。アンディ・ウォーホルは、もっともアメリカらしいアートを生み出した芸術家だと思うからです。

  アメリカのポップアートの旗手、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol、1928-1987)は、大量生産される製品やハリウッドスターを彼特有の感覚で描いた画家です。ウォーホルが作り出したアメリカのポップ・アートは、現代美術に新しい流れを導きました。彼が他界してもう20年以上経ちますが、その存在感は色褪せることなく、彼の作品は日々値段が高くなる一方ですね。日本でも大人気で、去年の「アメリカン・ポップ・アート展」に続き、今年は、六本木ヒルズの森美術館の10周年記念展として「アンディ・ウォーホル展:永遠の15分」が開かれました。余談ですが、森美術館が「アンディ・ウォーホル展」を10周年記念展のテーマとして決めたことは、とてもすばらしい選択だったと思います。東京の中心部でもっとも華やかな場所、六本木ヒルズにある森美術館は、芸術を身近な存在として楽しませる展示会が多いのが特徴で、現代美術展に力を入れています。その精神は、アンディ・ウォーホルの芸術観を引き継いだものだと言えますね。ウォーホルは、芸術の枠を広げ、私たちの生活と芸術の区分を曖昧なものにした人物です。崇高なものと思われた芸術の傲慢さを壊し、俗なる美術の世界を切り開いた人物なのです。

 

 

アンディ・ウォーホル、「マリリン・モンロー(1967)」 紙にスクリーンプリント 91.4 x 91.4 © 2014 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society(ARS), New York
アンディ・ウォーホル、「マリリン・モンロー(1967)」
紙にスクリーンプリント 91.4 x 91.4
© 2014 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / Artists Rights Society(ARS), New York

 

  美術が好きではない人も一度は目にしたことがあるはずのこの絵は、20万6500ドルで落札されました。高額で取引されるのは、この絵だけではありません。2013年には彼の作品「シルバー・カー・クラッシュ」が、1億500万ドルで落札され、ウォーホル作品の最高額を更新しました。ウォーホルの作品の売上総額は3億8030万ドルで、ピカソを上回っています。スターであることを望み、スターのように振舞った彼の戦略は成功したといえるでしょう。ウォーホルの顔は、彼が作った有名人たちの顔よりも有名になったのですから。

 

 

アンディ・ウォーホル、「自画像(1986)」  麻にアクリル、シルクスクリーン・インク  203.2 x 193   アンディ・ウォーホル美術館蔵  ©2013 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / ARS, New York
アンディ・ウォーホル、「自画像(1986)」
麻にアクリル、シルクスクリーン・インク
203.2 x 193
アンディ・ウォーホル美術館蔵
©2013 The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. / ARS, New York

  ウォーホルは、1928年ピッツバーグの移民者家庭で生まれ、芸術に才能のある母親の下で育ちました。彼がカーネギ大学で美術を専攻するようになった背景には、母親の影響が多く働いたのでしょう。卒業後、ウォーホルは、商業デザイナーとして挿絵や広告などで活動し、名声と富を築きました。彼が美術家として純粋美術の世界へ戻ってきたのは、1962年です。既存の美術が一つしかないがゆえにもっと高い価値があったのに対して、ウォーホルは、シルクスクリーンという印刷物を制作する技術を利用して自分の芸術品を大量生産し、大衆性と商業性両方から成功させます。彼は自分の作業室を「ファクトリー」と呼び、「私は機械でありたい」と言いました。

  大衆に認められたかったウォーホルは、有名人の顔をシルクスクリーンなどで制作するようになります。セレブリティの顔は、大衆的で話題性のあるものを求めたウォーホルにとっていい材料だったのでしょう。彼は複製を通じて、単にスターの顔だけでなく、その人のオーラ、魅惑、そしてその人への大衆の熱狂さえも大量に生産します。戦略の鬼才だったウォーホルには、自分の顔を作品にしてほしいというセレブリティたちの依頼が止まりませんでした。ウォーホルの作品になる事は、自分がスターであることの示しであり、自分の人気をもっと広げることだったからです。彼の展示会は、まるでスターたちのパーティー会場のようだったそうです。オープニングの際は、あまりにも大勢の人で作品が損なうのを恐れ、彼の作品を外す事さえもあったほどでした。

  ここまで来ると、美術史におけるウォーホルの存在感が正当なものなのか疑われるでしょう。展示会は作品のないパーティー場になってしまうという可笑しなことが起きるくらいだから、ウォーホルは彼が持っていたビジネスセンスと人脈によって運よく成功した人に思われれるかもしれませんね。しかし彼は20世紀最も優れた芸術家の一人として記憶されています。なぜでしょう。

  彼にはポップ・アートのリーダーという修飾語が付いています。ポップ・アートとは、1950年代半ばイギリスで生まれ1950年代末にはアメリカで広がった美術様式です。新しいものを求め、人工的な新しいイメージを採択する特徴があります大衆文化を絵の素材や情報として手を加えたのがポップ・アートです。それに独自の思想とウォーホルならではの発想、色彩などを加わったアンディ・ウォーホルの作品は、現代芸術のアイコンになりました。

 

ウォーホルとブリロ・ボックス(1964)
ウォーホルとブリロ・ボックス(1964)

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  ウォーホルが偉大な芸術家の一人として認められるのは、彼の作品が絶え間なく私たちに「現代大衆文化が持っている深い意味」を喚起させてくれるからです。彼の作品は、複製と大量に生産されるイメージが持っている意味について考えさせます。アーサー・C・ダントー(Arthur C. Danto)は『芸術の終末以後After The End of Art』でアンディ・ウォーホルの「ブリロ・ボックス」が芸術であると断言します。ウォーホルの「ブリロ・ボックス」とスーパ・マケットにあるブリロ・ボックスが如何なる差異も、事物と芸術の間の差異も説明できないです。しかしここで真に深刻な問題が浮かび上がります。ウォーホルの「ブリロ・ボックス」とスーパ・マケットにあるブリロ・ボックスの違いはどこにあるのかという問い!

  ダントーは、芸術作品であるかないのかを決定することはもはや作品の外形や表現様式ではなく、作品が求めているものや問掛けている意味が芸術品の採否をきめるのだと言っています。だからスーパ・マケットのブリロ・ボックスをギャラリに移す行為だけで、ブリロ・ボックスは芸術作品になれるとダントーは説明するのです。アンディ・ウォーホルの「ブリロ・ボックス」は、ギャラリーに行った私たちにいきなりブリロ・ボックスを差し出して「一体芸術作品とは何であろうか」という現代美学の根本的な疑問を投げます。

  現代美術が難しいという声をよく耳にします。一般に芸術品は長い年月の間の創作の過程を経て産まれるものであり、洗練された腕で作り上げた物質を指してきました。しかしアンディ・ウォーホルは、スーパーマーケットで売っている石鹸箱をそのままギャラリーで展示します。このような考えは私たちを惑わさせます。ギャラリーにいった一般人の私たちは、アーティストが差し出したモノが何を意味するのかが解らないからです。ある人は、自分の無知さをばれぬよう、意味不明の展示品の前で「素晴らしいね!」と分り切ったようなコメントを漏らしたりもしますね。展示するほどの作品なら素晴らしいに決まってあると思って。

  幾分悲しくなりますね。哲学的な意味を解らないと「これは芸術作品だ」と判断できないのでしょうか。答えは、ノーです。現代美術に関する話は後の方に棚上げして置き、アンディ・ウォーホルの「ブリロ・ボックス」の話に戻りましょう。「ブリロ・ボックス」が何を意味しているでしょう。簡単に言ってしまえば、あまり難しく考える必要はないと思います。それは、この奇抜な「ブリロ・ボックス」は彼が私たちに投げ出した「芸術は何であるか、このありふれた石鹸箱も芸術になれるだろうか」という質問に過ぎないですから。ウォーホルの既存の純粋芸術に対する皮肉で挑戦的な質問を投げかける点にあるがゆえに、ウォーホルの「ブリロ・ボックス」は、どこにでもあるブリロ・ボックスであると同時に一つの立派な芸術品になるのです。

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「芸術は一体何であるか」を問う「ブリロ・ボックス」|アンディ・ウォーホル” への2件のフィードバック

  1. 一理ありますね。現代美術が難しいと言われます。展示会に入って、絵の前でどれくらい見込んでいれば適当に理解しているともらえるのか深刻に悩んだことがあります。

    1. 由紀様
      コメントありがとうございます。そして返信遅くなった点本当にすみません。
      そうですね。何が言いたいかアーティスト本人もわかってないんじゃないかなと思ってしまう作品もありますね。笑
      でもそういうのも現代美術のおもしろさの一つでもあるので、奥が深いなーと思います。

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