アメリカを超えて世界のヒーローに飛躍する「キャプテン・アメリカ」|『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』レビュー①

  みなさんが初めて「キャプテン・アメリカ」の存在を知ったのはいつですか?多くの方は、映画『アベンジャーズ(2012)』や、その一年前に公開された映画『キャプテン・アメリカ/ファースト・アベンジャー』の名前を挙げるでしょう。『キャプテン・アメリカ/ファースト・アベンジャー』の物語は、『アベンジャーズ』の公開に向けて、キャプテン・アメリカの存在を知らせる程度で終わったプロローグだったことを考えると、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』は、スティーブ・ロジャースが自分の存在理由や正当性を主張した初めての映画といえるでしょう。

  今から、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』について考えたいのは、大きく二つです。まずは、「アメリカ」の正義のために生まれたキャプテン・アメリカの魅力をいかにすれば世界化出来るのか、そのためマーベルはどのようにキャプテン・アメリカの魅力をアピールしたのかということです。その次は、この映画が今私たちが生きている現実世界にどのようなメッセージを与えているのかについて考えていきたいと思います。

 

❋ここから下はネタバレを含んだレビューになります。ネタバレを望まない方はこちらへ。


 アメリカらしさを保ちながら、アメリカを超えて

 

© 2014, Marvel Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
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  『アベンジャーズ(2012)』の成功以来、マーベル・スタジオに課された最大の課題は、リーダーであるキャプテン・アメリカのカリスマ回復でした。アメリカの象徴的英雄であるキャプテン・アメリカは、最もアメリカ的なヒーローであり、それゆえ、世界的ヒーローにはなりえない宿命を持っています。実は、ロシア、ウクライナといったようなかつての社会主義国では、『キャプテン・アメリカ/ファースト・アベンジャー』というキャプテン・アメリカシリーズの第1作目の映画は、「キャプテン・アメリカ」を抜きに『ファースト・アベンジャー』という名前で公開されました。

  キャプテン・アメリカは、第2次世界大戦の最中にアメリカの正義を守るために生まれた英雄です。国民たちのアメリカへの尊敬や愛国心を導くために生まれたキャプテン・アメリカは、アメリカの英雄主義の原点に立っており、特別なスーパーパワーを持たなくても、他の輝かしいスーパーヒーローを圧倒するリーダーとしての権威を持っています。キャプテン・アメリカという名前は、単純なニックネームを超え、彼がアメリカのキャプテンであることの宣言であり、スティーブ・ロジャースに向ける尊敬、敬意の表しでもあるのです。キャプテン・アメリカは、説明される必要すらないリーダーとしての威厳を持っていると考えれられたがために、自分の存在価値を示す機会を与えられないまま、『アベンジャーズ』の公開を迎えたのかもしれません。

  まだ十分に能力を発揮していないキャプテン・アメリカをアベンジャーズのリーダーだと観客に認めさせようとしたことは、マーベル・スタジオの大きなミスでした。というのは、アメリカ文化を共有しない国々の人々がマーベル・ユニバースを接したきっかけとなったのが、2000年以来公開されたスーパーヒーロー映画だったからです。スパイダーマンやアイアン・マンといったマーベル・シネマティック・ユニバース(映画上のマーベルのスーパーヒーロー世界)を通してマーベルのアベンジャーズやスーパーヒーローズを知った人々は、天才科学者であり大金持ちのアイアン・マン、神であるマイティー・ソー、超人的な力を持つハルクを統率するのが、ヒーロー的魅力の少ないマッチョのスティーブ・ロジャースであることに首を傾げました。

  実際、『アベンジャーズ』を見終わった後、多くの人は「むずかしいのは全部アイアン・マンがやってなかった?」、「さすがアイアン・マンだった!」と言っていました。『アベンジャーズ』の中で、難しいことを成し遂げてから、キャプテンの指示を待ち、「さすがきみ(キャプテン・アメリカ)はキャプテンである」と言わされるアイアン・マンは、いささか気が引ける感がありましたからね。リーダーとしてのカリスマをキャプテンに託してあげているようなアイアン・マンの姿は、「さすがアイアン・マンだ!」と思わせるに十分でした。それに比べて、アメリカ特有のおせっかいな英雄主義の表象でもあったキャプテン・アメリカは、アメリカのキャプテンならマーベルのキャプテンなのかという失笑を買っていましたね。

  「キャプテン・アメリカ」の存在感をいかに引き上げるべきか、マーベルは相当悩んだでしょう。アイアン・マンの人気は日に日に高くなっているため、相対的に、アベンジャーズのリーダーであり、マーベル・ユニバースの中心軸であるべきキャプテン・アメリカの存在感は、日に日に弱くなっていきます。目を引くスーパーパワーを持つわけでもなければ、スーツさえもダサく、性格も倫理の教科書のようにまじめです。天才的でお金持ちでユーモアもあるアイアン・マンに比べて本当に「おもしろくない」男です。この男をキャプテンにさせるためにどうすればいいのでしょう。

  マーベル・スタジオは、この旧時代のヒーローを現代的感覚を持ち合わせたヒーローに進化させるべく、「キャプテン・アメリカ」が最も活躍できる環境を作り出しました。この映画の最も大きな特徴は、スーパーヒーロー映画の歴史に属しながら、『007シリーズ』や『ミッション・インポッシブル』のようなスパイ映画のような構成を成すということです。キャプテン・アメリカの魅力をアピールするために、生徒会長のような道徳的な人格に加えて国家のために働く特殊エージェントとしての側面を際立たせているのです。それは、国家に属されるキャプテン・アメリカの魅力を引き上げながら、人間として、またリーダーとしてのスティーブ・ロジャースの価値を示すためです。

  「キャプテン・アメリカ」という名前には、アメリカという国家のキャプテンであるという尊敬が含まれています。問題は、この尊敬が向かう先が「アメリカ」という国家としてイメージされることです。ヒーローとしての魅力が少ない、他国のヒーローに、私たちは興味を持ちづらいです。今、私たちが欲しているヒーローは、私たちを救ってくれるヒーローですからね。アメリカ人のみならず世界の人々をターゲットにしなければならない映画「キャプテン・アメリカシリーズ」は、キャプテン・アメリカを、アメリカだけのためではなく、世界のためのヒーローだへと進化させなければなりません。しかし問題は、本来のキャプテン・アメリカのカリスマは、「アメリカ」という国家から来るものだということです。アメリカという国家は、スティーブ・ロジャースにスーパーヒーローとしてのカリスマを与える根源でありながら、それを制限するものでもあるのです。

  『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』の監督であるルッソ兄弟(アンソニールッソ&ジョー・ルッソ)は、このジレンマを解決するために、キャプテン・アメリカのアメリカっぽさを、人類共通の価値(正義、自由)に置き換えます。映画の物語はヒドラと「シールド」の覇権争いといった政治スリラーとして仕立ていますが、物語の中心にいるキャプテン・アメリカは、アメリカという国家に帰属されない普遍的価値である自由と正義を追求します。こうしてキャプテン・アメリカは、アメリカの愛国主義のみに縛られない普遍的なヒーローへと生まれ変わります。同時に、普遍的な正義といったキャプテン・アメリカの本来の価値を描くことによって、スティーブ・ロジャースが愛しやまない祖国、アメリカに、「アメリカの本来のあるべき姿」、彼らが戻るべき「アメリカの本来の精神」を提示します。なぜなら、キャプテン・アメリカが守ろうとしている普遍的価値である自由と正義は、かつてアメリカの先祖たちが夢見ていた理想であり、アメリカという国家が作り上げた理念でもあるからです。これについてはまた次の記事で考えてみましょう。

 

 

つづく

 

アメリカを超えて世界のヒーローに飛躍する「キャプテン・アメリカ」|『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』レビュー①” への2件のフィードバック

  1. […]   先日、アメリカという国家を超えた「キャプテン・アメリカの普遍的な価値」について語らせて頂きました。(アメリカを超えて世界のヒーローに飛躍する「キャプテン・アメリカ」、なぜキャプテン・アメリカはシールド(S.H.I.E.L.D)を解体してしまうのか参照)キャプテン・アメリカは、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』において、新しいヒーロー像を見せてくれました。この映画において、キャプテン・アメリカは、アメリカの現実を投影しながら、アメリカの理想的姿である「自由と正義」のために戦いました。そうすることによって、彼は人類共通の価値を持った普遍的なヒーローへと進化しました。普遍的リーダーとしての正当性を得た彼は再び自分の理想の組織を再構築する一歩を踏み出します。一言でまとめるならば、この映画で描かれたキャプテン・アメリカは、「アメリカを超えて、アメリカのあるべき姿に回帰することを呼び起こす精神的リーダー」です。 […]

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