「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」、「アメイジング・スパイダーマンⅡ」をもっと楽しむために―スーパーヒーロー物語は単純な娯楽ではない!|アメコミ(アメリカン・コミック)の歴史と人気要因⑤

  を通して探ってきたように、現代の神話であるアメリカン・コミックスのスーパーヒーローたちは、アメリカの戦争に対する不安感から生まれ、アメリカの社会を反映しながら成長しました。よって、アメリカの時代背景や愛国主義を抜きにスーパーヒーローを語ることはできません。しかし、2000年代から今に至るまでのスーパーヒーロージャンルは、コミックスという紙の媒体を超え、映画という映像媒体が主になって来ています。またこのような現象は2015年公開の「アベンジャーズ2」以降、より加速化すると考えられます。

娯楽として消費されるアメコミ映画とその危険性

  世界化という名の下でアメリカ化が進んでいるとはいえ、アメリカのスーパーヒーローたちが世界中で人気になることは面白いですね。子供から大人まで楽しむことができるスーパーヒーロー映画は、DCコミックスやマーベル・コミックスを見て育ったわけでもなく、アメリカの歴史を知らない、もしくは経験していない日本人も大好きですから。善と悪がはっきり分かれており、最後には必ず善が勝つという希望的なメッセージを含んだスーパーヒーロージャンルは、深く考えずに、単純な娯楽として楽しむには持ってこいかもしれませんね。ポップコーンを食べながら片手にはコカ・コーラを持って、目の前に繰り広げられる非現実的な派手なアクション、先端技術の饗宴を楽しみ、アメリカン・ジョークに大きく笑って・・・という感じで私たちは、アメリカン・コミックをベースにしたスーパーヒーロー映画を消費することが多いですね。

マーベル・ユニバースのアベンジャーズを成功的に描いた映画「アベンジャーズ(2012)」 ハリウッド映画ならではのアクションシーンやアメリカン・ジョークが愉快。 © 2012 Marvel Studio, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
マーベル・ユニバースのアベンジャーズを成功的に描いた映画「アベンジャーズ(2012)」
ハリウッド映画ならではの目を引くアクションシーンやアメリカン・ジョークが愉快。
© 2012 Marvel Studio, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

  ある人々は、私たちが娯楽として見ているスーパーヒーロー物語は、自分も知らないうちにアメリカの国家暴力、軍国主義者になり得るため、危険性を秘めたジャンルとも言っています。無分別なアメリカ愛国主義に染まり、アメリカナイズしていくのは確かに危ないですね。もちろん、私たちの理性を破壊する可能性も秘めていることは否定できません。ある意味、精神的な奴隷化かもしれません。しかし、それを知りながらも私はスーパーヒーロー映画を見ることをやめることはないだろうし、そのエキサイティングな軽さを楽しむだろうと思います。なぜなら単純な図式で行われる派手なアクション、その広大な世界観、個性的なキャラクターたちが作り上げるストーリーは中毒性があり、エンターテインメント性が優れていますから。

 

現代の生きた神話であるアメコミの「スーパーヒーロー」

  全世界を魅了するスーパーヒーロー物語のエンターテインメント性は一体どこから来るのでしょう。それは、アメリカの影響だけではないと思います。アメリカスーパーヒーローたちの人気の秘訣は、人々が求める文化的コード、神話を失った現代での神話の再現です。

”The Gospel According to Superheroes: Religion and Popular Culture”の著者、オロペザによると、スーパーヒーローの7つの特徴(ファミリーリセンブランス)を持っています。

1)すべてのスーパーヒーローは、超自然的な力を持つ。
2)スーパーヒーローは、偶然に、または偶然な事故によってその力を得る。
3)自分のアイデンティティの変化や転移を表すために特別な服を着る。
4)スーパーヒーローは、親のいない孤児だったり親を持たないことが多い
5)生涯の中で大きな悲劇の経験を通して、挑戦、責任感を経験し、真のスーパーヒーローになることが多い。
6)スーパーヒーローの多くは法的地位を持った権威的体制にあるものたちとは望ましくない関係を結んでいる。彼らは法の順守より、正義を成すことに興味を向けており、自分が考えている正義を実現するためには法や古い秩序を無視することがしばしばある。
7)スーパーヒーロー神話は、神—人間の神話が混在する特性を持つ。

  この7つの特徴は、英雄神話の構造と非常に似ていますね。一つ違うものがあるとするなら、結末でしょう。多くの英雄神話は、超人的な力を持った英雄は、その傲慢さによって破滅に向かうことが多いです。エンターテインメント目的に作られたアメリカのスーパーヒーロー物語は、勧善懲悪的の明るい結末を好みます。特にコミックスよりもっと広い大衆をターゲットにしている映画においては、コミックスを原作としながらも、ヒーローの苦悩を単純化かつ省略し、映画の見所である悪との戦いという解決方法に長い時間を配分しますね。

 

スーパーヒーロー映画を見るときに、私たちに必要な姿勢とは?
~アメコミ映画をもっと楽しむ方法!~

  今日の「夢の製造工場」である映画は、無数の神話的主題が生産される工場でもあります。エリアーデによると、神話は、人間死活の精神的な可能性を探る鍵であり、神話は私たちに、自己の内面に向かわせてくれるのだといいます。目に見える図式で現れる現代の神話であるアメリカンスーパーヒーローズは、私たちになんらかのメッセージを伝えるために、現代の神話を作り上げているからです。スーパーヒーローは、失われた楽園の回復のために働く英雄です。この「失われた楽園」がどこなのか、そして彼らが夢見る理想像を知ることは面白いです。彼の性格、ミッションを通じて今の社会が求めるものが分ります。

アメリカの愛国主義の表象である「キャプテン・アメリカ」 アメリカを超えた世界中の人々をターゲットに彼はどのように変わるだろうか。 http://4.bp.blogspot.com/-3MEjsmO-q2s/T9tYLdhrBdI/AAAAAAAALYI/_0pi3eI02o0/s1600/cap.jpg
アメリカの愛国主義の表象である「キャプテン・アメリカ」
アメリカを超えた世界中の人々をターゲットに彼はどのように変わるだろうか。
http://4.bp.blogspot.com/-3MEjsmO-q2s/T9tYLdhrBdI/AAAAAAAALYI/_0pi3eI02o0/s1600/cap.jpg

  多くのスーパーヒーローはアメリカの戦争や社会不安の中で生まれ、アメリカの立場を代弁しています。しかし映画化につれて、スーパーヒーローが救うべき対象は、単にアメリカにとどまらず、全世界に広がりました。というのは、スーパーヒーローズの「楽園の回復」が「アメリカの栄光」に直接結びつく時代ではないということを意味します。もちろん、全世界を対象にしているとはいえ、アメリカ発祥のスーパーヒーローとハリウッド映画がアメリカの理念、アメリカ人が求めるエデンとまったく無関係になることはないでしょう。ここでわたしたちに問われる姿勢は、スーパーヒーロー物語を単純なエンターテインメントとしてのみ消費しないことです。

  スーパーヒーロー物語は、社会を積極的に反映する現代の神話です。よって、スーパーヒーロー映画を見るときに、今私たちが生きる世界を意識しながら見るのも面白いと思いますね。あるスーパーヒーローが生まれた時代、登場人物同士の関係およびその連関性を意識することで、そのヒーローが持つキャラクターへの理解が深まると思います。同時に、今私たちが愛しやまないアメコミヒーローがどのようなメッセージ性を持って私たちの前に現れたかを考えると、現代に社会の熱望や夢、正義がわかってくるでしょう。

  今週と来週、私たちに訪れてくる二人のスーパーヒーローが楽しみです。制作会社は異なりますが、どちらもマーベルのスーパーヒーローです。一人は、アメリカの表象であるキャプテン・アメリカ、もうひとりは私たちに親しみやすい貧しい小市民でありながら世界を救うスパイダーマンです。この二人がどのようなメッセージを持って私たちのところにやってくるか、非常に興味深いです。

「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」、「アメイジング・スパイダーマンⅡ」をもっと楽しむために―スーパーヒーロー物語は単純な娯楽ではない!|アメコミ(アメリカン・コミック)の歴史と人気要因⑤” への7件のフィードバック

  1. そうですね。確かにスーパーヒーロ物語は神話の現代版に思われます

    1. 由紀さん

      いつもコメントありがとうございます!
      神話や宗教は非常に興味深いですね。神話や宗教が非理性的なものとして排斥される今日、大衆文化の中で姿を表す宗教はとてもおもしろいです。

  2. 始めまして(*^^*)
    今日アメコミの歴史と人気要因を①〜⑤まですべて読ませていただきました。
    自分は映画アベンジャーズからアメコミにハマり、キャプテンアメリカが大好きでコミックも少しずつ集めてます。
    ①〜⑤まで読んで歴史的背景を絡めながらの内容にすごく興味を持ち、考えさせられました。
    これからドンドン映画が盛り上がっていくのが楽しみです。
    自分も歴史的背景を考えながらアメコミ映画を見て、さらに楽しもうと思います。
    僕の国語力が乏しいのでうまく文字に言いたいことが伝わりずらかったらごめなさい。
    ありがとうございました(*^^*)
    これからも楽しみにしてます

    1. さんぴん茶さん

      初めまして。コメントありがとうございます。
      そんな風に言っていただけてとても嬉しいです。
      これからアメコミ映画はもっともっと盛り上がってきそうですね~。マーベルスタジオの賢さには感心せざるを得ません。アベンジャーズⅡも楽しみですし、早くブラック・ウィドウを主演にした映画もみたいです←(スカーレット・ヨハンソンの美しさ!)

      これからもよろしくお願いいたします!

  3. […]   真のリーダーとなったキャプテン・アメリカが目指す「失われたエデン(以前の記事参照)」は明確です。「自由という名の正義が実現される場所」!かつてピューリタンたちが夢見て建設した理想のアメリカの実現です。キャプテン・アメリカは、彼を制限するアメリカという国家を脱ぎ捨てることで、アメリカおよびマーベルのキャプテンの座を確固たるものにします。そしてリーダーであるキャプテン・アメリカは、今日のアメリカに告げるのです。「初心(ピューリタン精神)に帰れ」と。それが、アメリカが世界のリーダーで有り続ける道であると。 […]

  4. はじめまして。Dennと申します。
    アメコミの歴史などの記事を読ませていただきました。スーパーヒーローがアメリカの歴史文化と主に発展していることがよくわかりとても興味深い内容でした…
    映画をより楽しむことができそうです!

    また私もアメコミについて調べてみたいと思いました。
    よろしければ参考にした文献やサイトなどを教えていただけないでしょうか?
    よろしくお願いします!

    1. Denn様

      コメントありがとうございます。そして返信が遅くなって大変申し訳ありません。
      映画を楽しむために少しでも役に立ててすごくうれしいです。ありがとうございます。
      私が参考にしたのは記事の中でも触れましたが、”The Gospel According to Superheroes: Religion and Popular Culture”ですね。残念ながら和訳はないようです。涙
      後はアメリカの歴史などもいいかもしれません。何かいい本を見つけたらコメントします!
      あまり役に立てなくてすみません。涙

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