英雄は辛い!試練に立ち向かい、苦悩するヒーローたちとフランク・ミラー(1970s~1980s)|アメコミ(アメリカン・コミック)の歴史と人気要因③

ブロンズ・エイジの到来

  シルバー・エイジが人間味溢れる正義の味方の誕生の時代なら、ブロンズ・エイジは、彼らに試練を与え、人間の悩みや不安といったダークな部分を導き出し始めた時期でした。それは、長期的な沈滞期に入ったコミック・業界の悩みだったのかもしれません。シルバー・エイジの終末、あるいはブロンズ・エイジの始まりを示す事件としてあげられる大きな出来事とは、グリーン・ゴブリンによるスパイダーマンの彼女、グウェン・ステイシーの殺害でしょう。

  マーベルは、スーパーヒーローたちの力を強めるだけではなく、敵も同じく強化しながらストーリーを複雑化させます。それまでは、スーパーヒーローたちの敵が超人的な力を持つことはありませんでしたし、何の罪もない人が悪党によって残酷に殺される事件は「ありえない」ことでした。しかし、1971年、マーベルは、グリーン・ゴブリンにグウェン・ステイシーを殺させることによって、ヒーローとその敵の間の力関係を均等に調整することで緊張感を与えました。全米を衝撃に与えたこの事件によって、スパイダーマンの人気は一時的に落ちましたが、かしこし選択だったと思いますね。

グリーン・ゴブリンとスパイダーマンの彼女であるグウェン・ステイシー ©  Marvel Characters, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
グリーン・ゴブリンとスパイダーマンの彼女であるグウェン・ステイシー
© Marvel Characters, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

 この時代のもう一つのおもしろいポイントは、ライバル社のDCコミックスとマーベルコミックスが手を組んだことですね。「スパイダーマンvsスーパーマン」、「バットマンvsハルク」といったクロスオーバー作品が発表されたのもこの時代でした。

 

DCとマーベルの初のクロスオーバー作品, ”Superman vs. the Amazing Spider-Man: The Battle of the Century.” © 1976 DC Comics&Marvel Comics Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
DCとマーベルの初のクロスオーバー作品, ”Superman vs. the Amazing Spider-Man: The Battle of the Century.”
© 1976 DC Comics&Marvel Comics Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
1981年公開された「バットマンvsハルク(Batman vs The Incredible Hulk」
1981年公開された「バットマンvsハルク(Batman vs The Incredible Hulk」

 

  絶対的なパワーを持つ善の見方であるスーパーヒーローズに依存していたコミック業界は、主人公のダークな部分に注目し始めます。それは、当時ハリウッドが作り出していたアンチ・ヒーローの映画や、フィルム・ノワールの影響のようにも思われます。「ブロンズ・エイジ」と呼ばれるこの時代を代表するダーク・ヒーローといえば、マーベル・コミックスの「ウルヴァリン(1982)」でしょうね。1974年ハルクと対立するキャラクターとして現れたウルヴァリンは、フランク・ミラーに出会って、悪を倒すためには、暴力、殺人までも行う冷血な人になりました。フランク・ミラー!この名をよく覚えてください。彼は次にくるモーダン・エイジのスーパーヒーローの原型を作った人でもあります。

© 1982 Marvel Characters, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
1982年発表されたミラーのウルヴァリン。日本の漫画から影響を受けた絵 © 1982 Marvel Characters, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
フランク・ミラー(Frank Miller) http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/71/Frank_Miller.jpg
フランク・ミラー(Frank Miller)
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/71/Frank_Miller.jpg

 

  1978年、「トワイライトゾーン」でコミック・ライターとしてデビューを果たしたフランク・ミラーは、1979年、マーベル・コミックスに移り、(Wikipediaにミラーがマーベルでデビューしたと表記されているのは間違い)「スペクタキュラースパイダーマン」第27号と第28号を担当するようになります。このときサブキャラとして登場していたデアデビルに惹かれたミラーは、当時の編集長、ジム・シューターに頼み、デアデビルシリーズを始めるようになります。「デアデビル(第158号、1979年)」がその始まりです。

 

フランク・ミラーによって生まれ変わるデアデビル © 1982 Marvel Characters, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
フランク・ミラーによって生まれ変わるデアデビル
© 1982 Marvel Characters, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

  ミラーの「デアデビル」は爆発的な人気のゆえに、月刊コミックになりました。マーベルは、ミラーに、デアデビルの絵だけでなく、ストーリーも任せるようになります。彼は、特有の鋭い目線で既存のスーパーヒーローを改めて解釈しています。いわば、スタン・リーによって生まれたスーパーヒーローたちに、欲望と人間的迷いを吹き入れたのです。当初、多少コミカルな面が混在していたデアデビルのキャラクターは、人間的かつ複雑に変わり、ストーリーは暗くな方向に進みました。日本人にはあまり馴染みのない「デアデビル」ですが、実は1980年代初めの頃、超絶的な人気だったといいますね。ミラーによって生まれ変わったデアデビルの成功は次なる英雄たちに大きい影響を与えました。それは、次なる時代「モーダン・エイジ」のヒーロー像の伏線でもありました。

 

ブロンズ・エイジはいつまで続いた?

  ブロンズ・エイジの始まりと同様に、その終わりも、いまだにはっきりとされていません。ブロンズ・エイジの後の時代の呼び名も、モーダン・エイジ、アイアン・エイジ、ダーク・エイジなどといったようにさまざまですし、いまだにブロンズ・エイジは終わっていないと主張する人もいます。

  しかし多くの人々は、ブロンズ・エイジの終わりを1980年代半ばだという意見に同意するでしょう。1985年と1986年は、ベテラン・コミック・ライターの世代交代が行われました。またDCコミックスが「シークレット・ウォーズ・オン・アース」を通じて、既存の設定を大幅に変更すると共に販売戦略を変えた時期でもありました。マーベル・コミックスから多くのコミック・ライターが退職し、新しい出版社を設立しはじめた時期でもあります。代表的な例は、イメージ・コミックスですね。

  私は、ブロンズ・エイジの終わり、つまりモーダン・エイジの始まりを「フランク・ミラーがDCコミックスに移った時」と考えています。モーダン・エイジはブロンズ・エイジが作り出したヒーローの人間的な悩みをより深刻化し、暗くしたことが特徴だと考えます。モーダン・エイジを特徴づけるなら、複雑化かつ多様化したキャラクターの描写、平面的な善と悪の図式の崩壊だと考えます。私たちが生きる現代は、絶対的な善と悪の区別がない道徳的危機の前に置かれています。同様に、私たちと同じ時期を生きるアメコミのスーパーヒーローたちも、何が善で何が悪なのか、正義とは何か、そして世界を救うために自分ができることは何かについての悩みを持っています。また、アメリカン・コミックにとどまっていたスーパーヒーローたちの活動範囲が広くなるのも一つの特徴です。(これは次の記事で述べるようにします。)

 

「モーダン・エイジ」の到来を告げる、
フランク・ミラーの「バットマン・ダークナイトリターンズ(1986)」

 

  1980年代レーガンが大統領に就任した以後、保守主義が力を持つことにつれ、コミックスの人気は復活していきます。この頃、デアデビルで認められたミラーは、DCコミックスに移り、80年代のコミック業界の革命といえる「バットマン・ダークナイトリターンズ(1986)」を出版します。当初、ミステリー探偵のような性格で登場し、1966年センチュリーフォックステレビジョンのシリーズ番組によって、面白くておかしいイメージに変わっていました。ミラーは、そんなバットマンに、ブロンズ・エイジのアンチ・ヒーロー像を取り入れ、ダークな内面を持つ苦悩するヒーローに仕上げました。

新しく生まれ変わったバットマン。「バットマン・ダークナイトリターンズ(The Dark Knight Returns)」 © 1986 DC Comics, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
新しく生まれ変わったバットマン。「バットマン・ダークナイトリターンズ(The Dark Knight Returns)」
© 1986 DC Comics, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

  幼い頃、親が残酷に殺害される場面を見た彼は、国家に疑問を持ち、自分が人を守り、救うべく、自分の意思でヒーローになります。社会や法律の守りを拒否するバットマンにとって、国家やこの社会は不安を呼び起こすものです。世界を救うスーパーヒーローでありながら、武装したスーツを脱いだ瞬間、バットマンは常に内向的で暗い、憂鬱で弱い人間に戻ります。彼は内面の恐怖と戦うヒーローなのです。ミラーは、ロビンを失い引退した55歳の老荘ヒーローであるバットマンが、なぜ再び現役として復帰しなければなかったかを描きました。スーパーヒーローの人間ならではの現実的な悩み、苦しみを描いミラーのバットマンは、大人のコミックマニアに大ヒットします。

  「アメリカン・コミックは、プレ・フランク・ミラーと、アフター・フランク・ミラーに分かれる」と言っても過言ではないほど、アメリカン・コミックに重大な影響を与えた人物です。ミラーを失ったマーベルは、かつてDCに圧倒的に押されつつありました。マーベルがどのようにしてこの危機を克服したのでしょうか。

つづく


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  1. […] ゴールデン・エイジ、シルバー・エイジ、ブロンズ・エイジ&モーダン・エイジ、そしてこの記事を通して、アメリカン・コミックの歴史を辿り、アメリカン・コミック特有のスーパーヒーローが世界に広まった過程を見てきました。2000年代がアメコミヒーロー映画の成功の始まりでしたが、今までは長年の歴史の中で積み上げてきたヒーローたちの魅力を知ってもらうためのプロローグにすぎませんでしたね。おそらく、マーベルが予想しているアメコミ・スーパーヒーローの全盛期は、「アベンジャーズⅡ(アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン)」以降からだと思いますね。 […]

  2. […]   1、2、3、4を通して探ってきたように、現代の神話であるアメリカン・コミックスのスーパーヒーローたちは、アメリカの戦争の不安感から生まれたアメリカの社会を反映しながら成長しました。よって、アメリカの時代背景や愛国主義を抜きにスーパーヒーローを語ることはできません。しかし、2000年代から今に至るまでのスーパーヒーロージャンルは、コミックスという紙の媒体を超え、映画という媒体が主になって来ていますし、このような現象は2015年公開の「アベンジャーズ2」以降、より加速化すると考えられます。 […]

  3. […]   マーベル・ユニバースもキャプテン・アメリカ同様、アメリカを基にして作られた仮想の世界です。それは、アメリカン・コミックの歴史(アメコミ歴史1、2、3、4参照)や、アメリカの名を背負っているキャプテン・アメリカをリーダーにしていることを見ても明らかでしょう。また、マーベル映画は、アメリカから始まりアメリカ人の手で作られる映画であるため、「アメリカらしさ」を完全に排除することは不可能です。 […]

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