第2次世界大戦以後、1950年代まで、スーパーヒーロージャンルは、衰退していきます 。長い戦争が終わってアメリカは飛躍的な発展を成し遂げました。もうスーパーパワーを持つヒーローたちは、幼稚なものに見えたのでしょうね。コミック全体の売上が落ち、多くの出版社がつぶれたこの暗黒期、生き残った出版社たちは戦略を変え、スーパーヒーローから脱皮していきます。一番大きな出来事は、1954年出版されたフレドリック・ワーサム(Fredric Wertham)の「無垢への誘惑(Seduction of the Innocent)」でしょうね。
ゴールデン・エイジの終わりを告げた「無垢への誘惑」と「コミックス・コード」


精神科医ワーサムは、漫画が少年犯罪を呼び起こす原因であると指摘しています。1950年代までコミック(漫画)は、子供向けのコンテンツでした。多くの子供向けメディアがそうであるように、アメリカン・コミックも、現実世界を極端に単純化し、単純化された図式を極大化させ、単純明瞭な勧善懲悪の世界を描いていました。(ディズニーもそうでした。『アナと雪の女王』からディズニーアニメを考えるを参照)問題は、その過程で暴力的なシーンや性的表現も多く含んでいたことでした。暴力的かつ性的なアメリカン・コミックは、子供が読むコンテンツとしてふさわしくないと考えたワーサムは漫画を有害書として選びます。ワーサムの本は話題となり、コミックス倫理規定委員会(the Comics Code Authority, CCA)が作られ、暴力や性的表現を制限するようになったのもこの時です。
アメリカン・コミック(スーパーヒーロー神話)の
第2の全盛期「シルバー・エイジ」
しかし「コミックス・コード」と呼ばれる規制にもかかわらず、アメコミの暗黒期は、長く続きませんでした。また戦争が起こりましたからね。ベトナム戦争が始まる1960年代、スーパーヒーローが再び注目されるようになります。1957年ソ連が人工衛星を発射して以来、冷戦が始まり、ベトナム戦争が本格化するにつれてスーパーヒーロージャンルは、再び大衆の心を引いたのです。「シルバー・エイジ」と呼ばれるアメコミ第2の全盛期が栄えたのは、コミックス・コードによってコミック業界自らが転換期を迎えたことも働いたでしょう。ジャンクフードのように中毒性のある刺激的なシーンを含めなくなった分、コミック業界は社会を反映するように変わって行きました。もちろん、この革命の中心にはマーベル・コミックスがありました。
スパイダーマンやアイアン・マンが生まれた1960年代
~人間味溢れるスーパーヒーロー創造に注力したマーベル・コミックス~

このときに生まれた第2世代スーパーヒーローたちは、ほとんどマーベル・ヒーローで、ゴールデン・エイジを風靡したDCコミックスの第1世代スーパーヒーローとは少し性格が異なります。第1世第のキャラクターたちは、超人間的な面が強調されますが、この時代のスーパーヒーローたちは、人間らしさ、人間ならではの弱み、苦しみを見せています。

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自分の怒りをコントロールできないハルク(The Incredible Hulk, 1962)や、極めて普通の貧乏学生だったスパイダーマン(Spider-man, 1962)、嫌悪されるマイノリティ集団である突然変異集団のX-メン(X-Men, 1963)、自己中心的なプレイボーイのアイアン・マン(Iron Man, 1963)、失明したデアデビル(Daredevil, 1964)と代表されるシルバー・エイジ・ヒーローは、人間ならではの欠点や苦悩を持ち、物語を立体的でドラマティックに進めていけるようになります。成長する主人公ピーター・パーカー(スパイダーマン)の悩みは、ティーンエイジャーたちの悩みでもありましたし、社会から疎外されながら自分たちで結束を誓うX-メンたちは、突然変異たちの人間的な姿を描くことで、人種差別などといった社会問題を表面化しました。
スーパーヒーローの連合チーム結成
DCのジャスティス・リーグとMarvelのアベンジャーズ

© 1960 DC Comics, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.

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マーベルが新キャラクターの創造に力を注いでいる間、ライバルDCコミックスは、既存のヒーローたちをリデザインしています。ヒーローたちの表姿が洗練されてきただけではなく、ストーリー性を加え、キャラクターたちを生き生きとDCが作り上げた世界で自由に遊ばせたのです。それだけではありません。スーパーマンやバットマン、ワンダーウーマンなどの既存のスーパーヒーローたちを集めて「ジャスティス・リーグ(Justice League of America, 1960~)」という連合チームを作りますね。映画「アベンジャーズ」の成功によって、マーベル社のアベンジャーズのほうがなじみやすいですが、「アベンジャーズ」が結成されたのは、DCコミックスのジャスティス・リーグが結成された3年後の1963年でした。

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アニメーションやマーチャンダイジング事業が始まるのもこの時期です。1966年、スーパーマンをテーマにしたミュージカル「それは鳥・・・飛行機・・・そしてスーパーマンだ(It’s a Bird…It’s a Plane…It’s Superman)」が制作されましたし、1968年にはマーベル・ヒーローたちが登場するアニメーション、「マーベルスーパーヒーローズ&スパイダーマン」や「ファンタスティック・フォー」などが制作されました。

シルバー・エイジの終末と70年代のアメリカ
シルバー・エイジがいつ終わったかについては、ゴールデン・エイジのようにはっきりした区分はなされていません。しかし一般的にシルバー・エイジの終末と見なすのは、保守主義や反戦運動が始まった1970年代はじめと言っていいでしょう。


前の記事で述べたように、アメリカン・コミックの根底にあるのは、戦争の中のメシア願望、そしてアメリカへの愛国主義でした。ベトナム戦争やウォーターゲイト事件を経験したアメリカ国民の政府への不信感は高まりましたし、アメリカ人はアメリカの未来そのものに不安を感じたのです。またヒッピー文化が広まる中で、若者たちは、正義や愛国主義を訴えるコミックの世界から離れて行きました。読者数が大幅減るだけではなく、青少年層が日に日に薄くなっていく中、コミック業界は、大きな決断をします。ターゲットを自分たちに馴染んで育ってきた成人層に絞り、彼らに向けたマニアックな作品を作り上げ始めるのです。
つづく
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アメリカは何でも消費する国ですね。英雄まで商品にするなんて…でも中特性があります。アメリカ文化は。
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[…] ゴールデン・エイジ、シルバー・エイジ、ブロンズ・エイジ&モーダン・エイジ、そしてこの記事を通して、アメリカン・コミックの歴史を辿り、アメリカン・コミック特有のスーパーヒーローが世界に広まった過程を見てきました。2000年代がアメコミヒーロー映画の成功の始まりでしたが、今までは長年の歴史の中で積み上げてきたヒーローたちの魅力を知ってもらうためのプロローグにすぎませんでしたね。おそらく、マーベルが予想しているアメコミ・スーパーヒーローの全盛期は、「アベンジャーズⅡ(アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン)」以降からだと思いますね。 […]
[…] 1、2、3、4を通して探ってきたように、現代の神話であるアメリカン・コミックスのスーパーヒーローたちは、アメリカの戦争の不安感から生まれたアメリカの社会を反映しながら成長しました。よって、アメリカの時代背景や愛国主義を抜きにスーパーヒーローを語ることはできません。しかし、2000年代から今に至るまでのスーパーヒーロージャンルは、コミックスという紙の媒体を超え、映画という媒体が主になって来ていますし、このような現象は2015年公開の「アベンジャーズ2」以降、より加速化すると考えられます。 […]
[…] マーベル・ユニバースもキャプテン・アメリカ同様、アメリカを基にして作られた仮想の世界です。それは、アメリカン・コミックの歴史(アメコミ歴史1、2、3、4参照)や、アメリカの名を背負っているキャプテン・アメリカをリーダーにしていることを見ても明らかでしょう。また、マーベル映画は、アメリカから始まりアメリカ人の手で作られる映画であるため、「アメリカらしさ」を完全に排除することは不可能です。 […]