子供の頃、いや、大人になった今も理不尽な出来事や大変な問題に直面すると、自分を助けてくれる劇的な誰か、いわば白馬の王子様やスーパーマンが現れることをを夢見てしまいます。しかし、スーパーヒーローどころか泣き寝入りするしかない時が多いのも現実ですね。だから私たちは映画や小説で代理満足します。その意味で今月は、私たちにとって楽しい月になりそうです。4月19日には、アベンジャーズのリーダー、キャプテン・アメリカが、25日にはスパイダーマンが私たちのところに訪れてきますから。

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全世界で大人気なアメリカンコミックのヒーローたち
日本では通称「アメコミ」と呼ばれるアメリカン・コミックは、一般的にDCコミックス(DC Comics, DCコミックと表記されることもある)とマーベル・コミックス(Marvel Comics, マーベルコミック/マーブルコミックとも表記される)で代表されるスーパーヒーロー物語を差します。
以下の表は、全世界興行収益のランキングです。赤い文字は、DCコミックスとマーベル・コミックスのスーパーヒーローたちです。オレンジ文字は、アメリカン・コミックが原作ではないけれど、アメコミから始まったスーパーヒーロー(Superhero)の特性を共有する映画です。このように、アメリカン・コミックから始まったスーパーヒーローの類型は、今やアメリカに限らず全世界で幅広く消費されるジャンルになりました。
順位 | タイトル | 全世界興行収入 | 米国公開日 |
---|---|---|---|
001 | アバター | 27億8227万ドル | 2009/12/18 |
002 | タイタニック | 21億8537万ドル | 1997/12/19 |
003 | アベンジャーズ | 15億1175万ドル | 2012/05/04 |
004 | ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 2 | 13億2811万ドル | 2011/07/15 |
005 | アイアンマン3 | 12億1316万ドル | 2013/05/03 |
006 | トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン | 11億2374万ドル | 2011/06/29 |
007 | ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還 | 11億1911万ドル | 2003/12/17 |
008 | 007/スカイフォール | 11億0856万ドル | 2012/11/09 |
009 | ダークナイト ライジング | 10億8103万ドル | 2012/07/20 |
010 | アナと雪の女王 | 10億7242万ドル | 2013/11/22 |
なぜ私たちは、アメリカのヒーローたちに熱狂するのでしょう。来週の「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」、再来週の「アメイジング・スパイダーマン2」に向けて、スーパーヒーロー物語(アメコミ)の歴史と、その人気の要因を探ってみましょう。
戦争と共に始まったスーパーヒーローとアメリカン・コミック
~アメコミのゴールデン・エイジ(Golden Age)

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スーパーヒーロー神話の始まりは、1938年に発表されたディテクティヴ・コミックス(ナショナルアイルド社National Allied Publicationsのコミック雑誌)に掲載されたスーパーマンでした。ナショナルアイルランドは、DCコミックスの前身ですね。その翌年である1939年には、マーベル・コミックスの前身であるタイムリー・コミックス(Timely Comics, Timely Publicationのコミック雑誌)が発刊し、1941年には、最もアメリカ的なスーパーヒーローと言われるキャプテン・アメリカを生み出します。こちらは、第二次世界大戦の最中でした。あの有名なスパイダーマンやアイアン・マンが初めて姿を表したのは、1960年代、ベトナム戦争のときでした。この時代は、スパイダーマンやアイアンマンだけでなく、ハルク、X-メンといったスーパーヒーローたちが現れます。
スーパーヒーローたちは戦争と共に生まれ、戦争を通じてその名を広げていきました。短期間で大きな戦争を繰り返し経験したアメリカ大衆の間では、戦争に対する恐怖と共に、長い戦争を終わらせてくれる英雄を待ち望んだのです。スーパーヒーローの始まりであるスーパーマンは、大衆のメシア(救世主)願望を上手く利用したものです。英雄神話からモチーフをとって、アメリカへの盲目的な愛国主義を擬人化したスーパーヒーローがスーパーマンだったのです。

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宗教学者エリアーデは、現代の本、映画などのマスメディアについて次のように述べています。 「すべての人間の無意識の内容と構造とは、神話の形象と形態に驚くべき類似を示している。理性中心の現代において、神話は本や映画、マスメディアの中で生き残っており、現代人の隠れた憧れを満足させるためにその機能をはたしている」と。エリアーデによると、私たちの周りに神話は、様々な形を持って、重要な位置を持ち、持続しているというのです。スーパーヒーロー物は、神話を持たない近代国家であるアメリカの、メディアの中に表された神話なのです。
英雄神話は、善と悪の二分化された世界を舞台とします。何か超人的な力の持った英雄が現れ、物語が示す理想、エデンを求めて冒険をし、悪と戦い打ち勝つというのが基本的な構造です。現代の生きた神話であるスーパーヒーローたちはメシアの代わりの役割を果たしています。彼らの英雄神話的なモチーフは、繰り返し生産され、消費されていますね。DCコミックスの狙いは見事に的中したのです。1939年から1941年の間、わずか2年間でスーパーマンは、爆発的な人気を誇る英雄になりました。スーパーマンの成功によって、第2のスーパーマンが量産されるようになります。バットマン、ワンダーウーマン、アクアマン、ホークマンがそれらです。アメリカの漫画から始まったスーパーヒーローたちは全世界に広がり、日本でも「月光仮面(1959)」や「怪傑のハリマオ(1960)」といったドラマが流行、当時の日本人を慰めました。

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しかしいつまでもDCコミックスのワントップ体制が続くわけではありません。後に強力なライバルになるマーベルコミックスの前身であるタイムリーコミックス(以下マーベル・コミックスに統一)が登場したのです。彼らが誕生させた初めのスーパーヒーローは、人間の狂気が生み出した恐怖の存在として描かれたヒューマン・トーチー(マーベル・コミックスで発表されたヒューマン・トーチとは別物)です。この時期のマーベル・コミックスは、超人間的なDCヒーローたちとの差別化を図るために、ミステリー要素や恐怖の要素を加わっています。しかし、マーベル・コミックスの人気を作り上げた英雄は、スーパーマンからモチーフを取って作られたアメリカ愛国主義の表象、キャプテンアメリカでした。キャプテン・アメリカの人気に伴い、ヒューマン・トーチも人たちを救うスーパーヒーローとして描写されるようになっていきます。この時期のアメリカでは、DCコミックスやマーベル以外にも、多くの出版社が生み出したスーパーヒーローたちが活躍していました。「ゴールデン・エイジ」と呼ばれる時代です。




1938年から1945年まで続いたスーパーヒーローのゴールデンエイジを支えたのは、「第二次世界大戦」でした。善が悪を滅ぼし、人たちを救うというメシア願望が積極的に消費される時期です。スーパーヒーローたちを通じて、アメリカの戦争、国家暴力を露骨に美化するためでもありました。資本や技術、先端武器への崇拝も覗かれるスーパーヒーロー分野は、アメリカ人のアメリカへの盲目的な愛国主義のプロパガンダでもあったのです。
つづく
[…] 前の記事で述べたように、アメリカン・コミックの根底にあるのは、戦争の中のメシア願望、そしてアメリカへの愛国主義でした。ベトナム戦争やウォーターゲイト事件を経験したアメリカ国民の政府への不信感は高まりましたし、アメリカ人はアメリカの未来そのものに不安を感じたのです。またヒッピー文化が広まる中で、若者たちは、正義や愛国主義を訴えるコミックの世界から離れて行きました。読者数が大幅減るだけではなく、青少年層が日に日に薄くなっていく中、コミック業界は、大きな決断をします。ターゲットを自分たちに馴染んで育ってきた成人層に絞り、彼らに向けたマニアックな作品を作り上げ始めたのです。 […]
日本でも様々なアニメーションで英雄が誕生しましたね。大人までも仮面ライダーになりたい人がいっぱいです。
[…] スーパーヒーローの誕生からゴールデン・エイジまで|アメコミ(アメリカ… […]
[…] ゴールデン・エイジ、シルバー・エイジ、ブロンズ・エイジ&モーダン・エイジ、そしてこの記事を通して、アメリカン・コミックの歴史を辿り、アメリカン・コミック特有のスーパーヒーローが世界に広まった過程を見てきました。2000年代がアメコミヒーロー映画の成功の始まりでしたが、今までは長年の歴史の中で積み上げてきたヒーローたちの魅力を知ってもらうためのプロローグにすぎませんでしたね。おそらく、マーベルが予想しているアメコミ・スーパーヒーローの全盛期は、「アベンジャーズⅡ(アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン)」以降からだと思いますね。 […]
[…] 1、2、3、4を通して探ってきたように、現代の神話であるアメリカン・コミックスのスーパーヒーローたちは、アメリカの戦争の不安感から生まれたアメリカの社会を反映しながら成長しました。よって、アメリカの時代背景や愛国主義を抜きにスーパーヒーローを語ることはできません。しかし、2000年代から今に至るまでのスーパーヒーロージャンルは、コミックスという紙の媒体を超え、映画という媒体が主になって来ていますし、このような現象は2015年公開の「アベンジャーズ2」以降、より加速化すると考えられます。 […]
[…] マーベル・ユニバースもキャプテン・アメリカ同様、アメリカを基にして作られた仮想の世界です。それは、アメリカン・コミックの歴史(アメコミ歴史1、2、3、4参照)や、アメリカの名を背負っているキャプテン・アメリカをリーダーにしていることを見ても明らかでしょう。また、マーベル映画は、アメリカから始まりアメリカ人の手で作られる映画であるため、「アメリカらしさ」を完全に排除することは不可能です。 […]