春をまとったモネの「散歩、日傘を差す女性」|クロード・モネ

  ここ何日間で満開した桜の花びらが雨水と共に降り落ちています。雨水があふれ流れる道の上で薄桃色の花びらが半透明な花色で斑に染みついていきます。灰色の雨雲が風景の中に遂げ混んで視野がひたすら湿った春です。

  葉を咲ける前に花が咲く春花のように騒がしく降り落ちる春雨。この雨が止んだら世の中は若々しい黄緑の葉達で満ち溢れるでしょう。視野は水彩画のように生き生きとし、空には入道雲が流れていくでしょう。今すぐ生まれたばかりの初春のように乙女の胸は騒ぎ出すだろうし、至る所で咲き乱れる花の数ほど新しい出会いが生まれるでしょう。再び新しくなった風景が、新しい出会いの数ほど自由に流れ廻るだろうし、子供たちは外へ外へと走り回るでしょう。矢の催促に勝てない振りの若い母たちは子供を連れて外に出るでしょう。体に触れては流れる雲を乗せて吹きまくる風に久しぶりの開放感に身を任せるでしょう。こんな春の日、私にはモネの「散歩、日傘を差す女性(1875年)」の風景が浮かびます。

 

散歩、日傘を差す女性(1875)」、モネ

 

The Stroll, Camille Monet and Her Son Jean (Woman with a Parasol),1875 Oil on canvas, 100 x 81 cm  National Gallery of Art, Washington
The Stroll, Camille Monet and Her Son Jean (Woman with a Parasol),1875
Oil on canvas, 100 x 81 cm
National Gallery of Art, Washington

  吹けよと言わんばかりの春風の野原に立ち留まり、思わず体を委ねて自由になった若い母親。彼女の自由が、開放感が冬寝していた細胞たちを目覚めさせ、春の野原を貪るでしょう。今も目に余ります。大気と風と春の日差しに幾分溶け込んでいる女は、彼女が連れてきた男の子の育児からこの瞬間無関係に自由です。フランスの印象派画家の一人であるモネ(Claude Monet,1840-1926)の絵には際立って日差しが華やかです。

  際立ってまぶしい光があふれ印象派画家の絵に馴染んでいる私たちには些か意外ではありますが、実を言うとヨーロッパは晴れた日が稀です。だから日差しが良い日は、皆、外に出て日差しを楽しむそうです。以前の西洋美術が主に室内で行われたのに比べて印象派の画家たちは彼らの絵具を持って外の出ました。そして躊躇うことなく日差しと風と人をキャンバスに映し出します。当然、日差しの鮮やかな風景が絵の中で再生されます。

  観てください。昼下がりの日差しの中で風に靡く女性の白い裳裾を。早いスピードで流れる綿雲の中に女性の頬が隠れています。荒っぽい筆のタッチで描かれている緑の原と女性の日傘。もしかしたら秋の野原かも知れません。しかし私の目には新緑に染められ始まった野原に見えます。もうすぐ冬の間死んでいた土色の草は黄緑の色に変わり、いつの間にか蝉の鳴く声がうるさい深緑に移り変わるでしょう。私は絵の風景の片隅に立って風と日差しの中に無心に心身を委ねている女性や彼女の背景に広がる野原を眺めているような錯覚に陥ります。絵の中に流れる風と雲が私の顔に触れ、髪の毛を乱していくでしょう。私の裳裾も髪の毛も白い雲や青い空の色が行き来している女性の薄い水色の裳裾のように染め代わっているのかも知りません。あちこちやたらに押されている明るいハイライトの光が観ている人の目をまぶしくさせているかも知れません。私が女性を眺めている時のように…

 

  もうこれ以上輪郭は大事ではありません。明暗や遠近法も光と風の中でその存在を隠してしまいます。人物が中心をなしていたルネサンスの絵画は印象派の筆先で大気や光そして雲と言った背景の一部になりました。ある人は印象派の絵は実主義の完結のようだとも言います。人物はもちろんその背景まで見えるままの事実を映しているからです。日差しと風が明るいハイライトがやたらにタッチされている絵の中の女性を観てください。モネのこの絵を観ていると美味しそうな土の匂いと共に生き生きした草の匂いがするような気さえします。そこに、風が吹き、日差しと雲が地天に溢れだすその野原に実を任せた女性はそのまま自然になります。自ら存在する周りの全ての一部になるのです。

  この絵を観るたびにその野原に吹きまわっているその風が全身に感じられます。印象派以前のどの画家がこのように生々しく日差しと風と雲をキャンバスに映し出した画家がいましたでしょうか?本当に見事です!

  自分ている対象について自分が感じる自分の印象を表現した印象主義の絵は究極の事実主義かも知りませんが、すべての人にそれが事実な訳ではありません。ある事柄を眺める時個々の印象派千差万別でしょうから。だから印象主義は事実の頂点を描いていますが、写真のような事実ではありません。そして私は彼らのその素晴らしい印象に緩和され、日差しを感じて風を感じて彼らのキャンバスの中の人物のようにその中へ自らを委ねます。

  印象派という名称を作り出したルイ・ルロワ(Louis Leroy)の表現ほど印書派について言い表している言葉はないでしょう。当時一流の批評家であり、「ル・サリバ(Le Charivari)誌の記者であった彼はいわゆる「落選展」を導かせたモネの「印象日の出」を観て「ただ雰囲気のみを伝える印象のみの絵」だと嫌味を言いました。そしてそれがそのまま印象派の名称になりました。

 

「印象・日の出(1873)」、モネ

Impression, soleil levant,1873, Oil on canvas, 48 x 63 cm, Musee Marmottan, Paris
Impression, sunrise,1873, Oil on canvas, 48 x 63 cm, Musee Marmottan, Paris

  印象派とは光の動きによって瞬時に代わる色彩の効果をそのまま描いた技法です。光によって時時刻々代わる姿を自分の目に移るがまま客観的に描きます。実際に色彩は太陽の光によって様々な色に見えます

  時によっては沈んでいく太陽の影響で黄昏に染められ女性の白いドレスは赤色にも見えるし、青い空色が交えて青く見える時もあります。しかし、従来の美術観では全てのものには固有の色が決まってありました。草は緑で白い服なら白で日の出は黄色です。太陽の光によって明暗の差があるくらいです。シルエットの境界線も正確です。しかし、印象派の絵は光の影響を受けて毎瞬毎瞬色が変わり、境界線さえも光の中で複雑に絡まってしまいます。

  モネは印象派を作り上げた人物でもあります。1874年4月15日から5月15日までの期間、パリのカプシーヌ街35番地にあるナダル写真館でとても珍しくて面白い展覧会が開かれます。既存の技法から大きく離れていたために認められなかった、いわゆる落選した作品を展覧する展示会でした。モネは彼の故郷ノルマンディーの海岸ルアルブル(Le Harvre)港の日の出の風景を出品します。多くの関心と論難の中で開かれたこの落選展は3回目からは「印象派展」という正式な名称で開かれ、1886年にわたって8回の展覧会を開き、早いスピードでパリの美術界に広がります。マネ、モネ、ゴギャン、セザンヌなどの印象派画家はこの座を通じて名を広げていました。しかし変わらない者はありません。印象派も20世紀の新しい画風にその座を譲ります。印象派の画家たちが彼らの瞬間の視覚を信じて表現したとしたら私は彼らの視線を借りて感じます。風と日差しとその匂いまでも…

 

春をまとったモネの「散歩、日傘を差す女性」|クロード・モネ” への4件のフィードバック

  1. 私もすきです。この絵。本当は人の顔に雲が掛かることないよね。モネの目、素晴らしいです

    1. 由紀さん

      「モネは一つの目にすぎない。しかしそれはなんと素晴らしい目だろうか!」というセザンヌの言葉を思い出しますね。

  2. […] 病気により32歳の若さで死を迎えたモネの妻カミーユ。モネの「散歩、日傘をさす女」に描かれた彼女です。子宮がんだっただろうと言われるカミーユが病気に苦しんでいた頃、実はモネにはアリスという愛人がいました。アリスはモネに絵を依頼した実業家の妻でしたが、夫の倒産後、モネのところに住んでいたと言います。カミーユが亡くなるまで、カミーユの病気の世話もしていたそうですね。この絵を眺めていたら、カミーユが感じたであろう感情、愛人の妻を看病するときのアリスの心、そしてモネがカミーユを描く時の思いやカミーユの死後この絵を眺めたときの彼の複雑な気持ちといったような様々な感情が混じり合い、涙が出てしまいました。 […]

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