殻を破いたエルサの「Let it go」|『アナと雪の女王』レビュー③

 エルサが自分の能力を抑えた理由は、愛する妹を守るためでした。エルサがアナを傷つけてしまったあの夜も魔法を使ってアナを守ろうとしたからです。エルサの両親は、それを「コントロールされない」怖い力のように扱います。

「愛」のために閉じなければならなかった心のドア

 エルサが妹のために行った魔法を「愛」として、そしてアナが死にかけた事件を「事故」として考えるのではなく、「エルサに与えられた呪い」のように扱うのです。そしてアナとエルサを守るためにエルサを世界から断絶させて能力を抑えさせようとしています。人々に能力を知られず、コントロールすることによってエルサは守られると考えたのです。それはエルサの内面を抑圧し続けるジレンマに陥らせます。エルサにとって、自分の能力は相手を傷つける危険なものになってしまいます。アイロニーですが、彼女は「愛のために」心のドアを閉ざし、愛する人と断絶せざるを得なかったのです。「愛は開かれた扉だ(Love is an open door)」と歌うアナとは真逆の愛です。

 エルサはすべての扉を閉じて、一人の世界で生きてきました。ドアというものは、外と中をつなぐものでありながら、区別するものでもあります。そのため、開いたドアと閉まったドアは真逆の印象を与えます。ドアは閉めるためにもあり、開けるためにもあります。しかし、閉まったドアも開いたドアも「外と中の往来」を前提しています。

 人はみなそれぞれの心に扉(壁)をもっています。誰かに心を開けるとき、自分の心の扉も開けています。誰かを自分の心の中に入れるということは、その人に気をゆるせるということですから。心の扉は、中にいる人本人しか開けることができません。何回叩いても開かなかったエルサの部屋のドアのように、中の人が開けなければ、その人の空間に他人が入ることはできません。無理やり他人の心を開こうとするのは、暴力による侵略であり、そこにはその人への理解はありません。

アナによって無理やり開けられたエルサのドア 

  すべての扉が開いた戴冠式、ハンスと婚約を誓って自分たちを祝福してほしいとエルサに願い出るアナは、それを断るエルサとぶつかります。アナは初めて自分を拒み続けてきた姉に今まで溜めてきたのであろう不満を吐き出します。一度も部屋の扉を開けず世界をシャットアウトして来たエルサに「本当の愛」や「運命の出会い」がわかるはずがないと怒るのです。アナは、「なぜお姉ちゃんは私に拒否するの?なぜ世界からシャットアウトするの?何がそんなに怖いの?」と責めます。エルサを理解できなかったアナが、エルサの心の扉を無理やり開けようとしているのです。それはエルサの手袋を無理やりはずすアナの行動にも表れます。思わず能力を使ってしまったエルサの顔は恐怖に満ちています。そしてそのまま彼女は逃げてしまうのです。

殻を破いたエルサの「Let it go

http://www.disney.co.uk/movies/frozen/gallery
http://www.disney.co.uk/movies/frozen/gallery

  知られたくなかった秘密がみんなの前で晒されたエルサは、抑えてきた能力を一気に使うかのように暴走します。アレンデール王国から逃げて北の山へと向かいます。ここでエルサが歌う「Let it go(イディナ・メンゼル)」は、この映画の主題歌でもあります。

 

 「Let it go」歌詞(全文)/和訳

The snow glows white on the mountain tonight
Not a footprint to be seen
A kingdom of isolation and it looks like I’m the queen
The wind is howling like this swirling storm inside
Couldn’t keep it in, heaven knows I tried
Don’t let them in, don’t let them see
Be the good girl you always have to be
Conceal, don’t feel, don’t let them know
Well, now they know

Let it go, let it go
Can’t hold it back anymore
Let it go, let it go
Turn away and slam the door
I don’t care what they’re going to say
Let the storm rage on
The cold never bothered me anyway

It’s funny how some distance makes everything seems small
And the fears that once controlled me
can’t get to me at all
It’s time to see what I can do
To test the limits and break through
No right, no wrong, no rules for me,
I’m free
Let it go, let it go
I am one with the wind and sky
Let it go, let it go,
You’ll never see me cry
Here I stand and Here I’ll stay
Let the storm rage on

My power flurries through the air into the ground
My soul is spiraling in frozen fractals all around
And one thought crystallizes like an icy blast
I’m never going back
The past is in the past

Let it go, let it go
And I’ll rise like the break of dawn
Let it go, let it go
That perfect girl is gone
Here I stand in the light of day
Let the storm rage on
The cold never bothered me anyway

山が真っ白に光る今夜、足跡一つ見えないね
私はこの孤独な王国の女王のよう
風が暴れ声を上げている
ずっと中に止めて置けなかったんだ
空もわたしの頑張りをわかるだろう
誰もが入れないように、誰にも見られないように
いい子でいるんだよ、いつものように
隠して、感じないで、誰にも気づかされてはいけないんだよ
隠せ、感じるな、知られてはいけない
でも今はもう、みんな知ってしまったんだ…

これでいいの、これでいい
もう我慢できない
これでいいの、これでいいさ
背を向けてドアを閉ざそう
噂はもう気にしない
嵐を暴れさせよう
寒さはもうわたしを邪魔できない

遠くなったからって、すべてがちっぽけて見えるなんておもしろいわ
わたしが恐れたとはもう私を縛れない
私の能力を試そう
限界を試し、乗り越えよう
正しいのも、間違ったのも、ルールなんかもいらない
私は自由なの

これでいいの、これでいい
私の風と空と共にいるの
これでいい、これでいいの
もう泣かない
私が立っているここが、私の居場所

嵐を暴れさせよう
私の力で空から血を吹き荒らすんだ
私の魂は凍り付いた破片たちの中でくるくる回っている
そして一つの考えが氷の突風のように結晶を作ったんだ

もう帰らないよ
過去には戻らない
これでいい、これでいい
私は夜を明ける太陽のように登るんだ

これで、これでいい
いい子ちゃんはもういないんだ
私はここで立ち上がる
明るい日差しの中で
嵐を暴れさせよう
寒さはもう私を邪魔できない

  この曲は1節と2節でエルサの気持ちの変化がよく表れています。孤独なエルサの内面を歌っている1節は、透き通るようにきれいでシンプルなピアノの音にボーカルを引き立たせています。2節に至ってはメロディーラインは大きく変えずに、ギターやドラムなどの音を加え、エルサが階段を走っていく場面はとてもリズミカルに仕上げています。髪を解き肌が透けてみえる水色の服に着替えた場面でクライマックスに至りますが、エルサが自分の殻を破り、自由になったことを音楽と映像で示しています。

  エルサはもうこれでいいと、自分は大丈夫だと自分を慰めます。雪の城の中では怖がらず堂々としていられます。雪の国の女王になって、見た目も性格も変わったかのように見えます。マイノリティがマジョリティーに無理して合わせる生き方ではなく、自分の個性のまま生きる方法を見つけたようです。エルサはもう子供ではありません。エルサは自分を受け入れることで成長し、自立することができました。自分のトラウマを克服したかのように見えます。彼女は、「いい子ちゃんはもういない」と言いますが、むしろ寂しく聞こえます。エルサは本当に自由になったのでしょうか。

  これが本当の成長であり、葛藤を解決する方法であるならば、物語はここで終わるべきです。しかし物語はまだまだ続きます。エルサは凍り付いた城の中でも、ドアを作って固く閉めて自らを断絶させます。エルサの居場所はとても狭く、雪の女王が支配する国には誰一人住むことができません。彼女の心は凍り付いたまま閉ざされているのです。エルサは雪の怪物を作ってアナや人々が近づけないようにします。アナを崖から持ち上げて「もう来るな」と警告する怪物は、アナのためだと思ってアナを拒んでいるエルサの孤独さのシンボルでもあります。エルサはアナのために孤独を選んで来ましたし、今はアナの幸せのためと自分が自由でいられるために、孤独を選んでいます。エルサは怖いのかもしれません。自分の孤独な雪の王国が自分を理解し始めたアナのノックによって終わってしまうのではないかと。そしてまた苦しい過去に戻り、アナを傷つけるのではないかと。しかしエルサの居場所は凍り付いた雪の城ではなくアレンデール王国でなければなりません。そのためにはまた戦っていなければなりません。


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