孤独なマイノリティであるエルサ|『アナと雪の女王』レビュー②

  手に触れる全てを凍らせるエルサは、他人とは異なる力を持っているため、両親によって感情を見せないように生きることを強いられます。抑圧された自我、もっと広くはマジョリティの枠に無理やり合わせることを強いられるマイノリティーとして理解することができます。隠れて生きていた彼女は自分の能力を他人に知られたことに恐れを感じ、アレンデールから逃げ出し城を建て、自らを閉じ込めます。固く凍らせたお城です。

  映画は、「Frozen Heart」を歌いながら氷商売人たちが氷を切っている場面をプロローグとして映しています。そしてこれを小さいクリストフ・ブジョーグマンとトナカイスヴェンが見ていますね。この歌は重要な伏線でもあると思うので、歌詞の一部を紹介しますね。
(※この記事で使われる歌詞はすべてhttp://www.disneyclips.com/lyrics/index.htmlから引用したものであり、和訳は私の勝手な訳だということを断っておきます。)

Frozen Heart(凍りついた心)の歌詞/和訳 

So cut through the heart
Cold and clear
Strike for love and strike for fear
See the beauty, sharp and sheer
Split the ice apart
And break the frozen heart
Hyup! Ho! Watch your step! Let it go!
Hyup! Ho! Watch your step! Let it go!
Beautiful! Powerful! Dangerous! Cold!
Ice has a magic, can’t be controlled
Stronger than one, stronger than ten
Stronger than a hundred men!Hyup!

<和訳>
冷たくて透明な心を切り落とそう
愛に向かって恐怖に向かって壊そう
鋭く透き通る美しさを見よう
氷を割ってしまおう
そして凍り付いた心を壊してしまおう
美しい!強い!危ない!そして冷たい!
氷はコントロールされない魔法
それは一人より強くて10人よりも強い
100人の男よりも強い

  「美しくて強くて危なくて冷たい氷」と、「凍り付いた心」は、エルサの内面を示しています。それは強く鋭いものでコントロールされない「怖い力」でもありますが、「透き通るほどきれいな」ものでもあります。また、氷というものは、水になっり水蒸気になったりと形を変えるものです。エルサの凍りついた心がいつまでも凍りついたままではなく、いつかは溶けることを暗示しているような気がします。

  次に、眠っているエルサのシーンに移ります。アナはエルサに遊ぼうと誘いますが、エルサは寝ぼけたまま「一人で遊んでて」と言うばかりです。何度起こしても起きないエルサを起こすアナの言葉は、「雪だるまろう?Do you want to build a snowman?」です。これは、アナの初のソロ曲のタイトルになる重要なセリフでもあります。そして二人はある部屋に入って仲良く雪遊びをするのですが、みなさんの想像通り、その雪や凍った地面は、エルサの能力によるものです。二人は雪だるまを作ってオラフと名付けたり、滑ったりしながら遊びます。そして幸せな二人の人生を変える事故が起こります。空中から落ちてくるアナを助けるために使った魔法でアナを傷つけてしまいます。アナは命を拾いますが、楽しく遊んでいた思い出だけを残してエルサの能力に関する記憶を消されてしまいます。王と王妃は、エルサの「能力」が知られないよう城にあるすべての窓や門の扉を閉めますそれがエルサを守る方法だと思ったからです。エルサは部屋に閉じこもり、自分の力を抑制しようとがんばりますが、彼女の力は強くなっていくばかりです。寂しいのはエルサだけではありません。意識が戻ったアナは、理由も知らされず、エルサに拒まれ続けて育ちます。海難事故で両親を失った日さえもドアを開けてくれないエルサにアナが感じた寂しさと悲しみは映画を観ている私にまで伝わってきました。

  時は経ち、エルサが女王として即位する戴冠式が来ます。13年間閉ざされていた城の門が開かれ、戴冠式のパーティーが開かれます。そこでアナは王子ハンスに出会い、恋に落ち、婚約をするのです。しかし、出会ったばかりの男と婚約をすることをエルサが認めるわけありません。二人は喧嘩になり、思わず「凍らせる能力」を使ってしまったエルサは、王国から逃げます。皆にその能力が知られてしまったからです。彼女の暴走によって夏は冬に変わり、エルサの暴走を止めて夏を取り戻すべくアナは旅立ちます。逃げ出したエルサは、北の山にたどり着き、氷の城を作り、その中でありのままの自分で生きることを決めます。そしてアナがどのようにしてエルサを連れ戻し、アレンデールを元(正常な状態と理解される夏)に戻すのかを、ディズニーは素晴らしい歌と映像を通して描いていきます。

http://ugc.disney.co.jp/blog/movie/category/anayuki
http://ugc.disney.co.jp/blog/movie/category/anayuki

「普通」と「普通でないもの」ではなく、「多数」か「少数」

  映画の中で、エルサの能力は、「非正常」なものとして理解されます。怪物と呼ばれるくらいエルサを恐れてしまうのです。ウェーゼルトン公爵は、魔法を使うエルサを見て、怪物だと叫びます。そして彼女の妹であるアナも怪物ではないかと疑いの目を向けます。アナは、自分は「普通(ordinary)」であると答えますね。アナの婚約者も彼女は普通の人だと彼女をかばいます。普通や正常、普通でない、非正常といった分け方をしたくありません。代わりに、マジョリティーとマイノリティーと表現したいと思います。マイノリティーであることは悪でもなければ、異常なものでもありません。赤が青の違いのように、異なるだけの違いです。

抑圧されたマイノリティーの自我 

   エルサの魔法は、エルサを普通(ordinary)と違う者と定義づけらせるものです。それは他人との生れ付きの違いであり、時としてはコンプレックスになるものかもしれません。場合によっては性格的な欠陥かもしれません。或は凡人には理解出来ない能力かも知りません。そのような子供は大人になりながら、他人との違いに気づきます。他人から否定されたり、他人と比べることによって、自分の違いに気づいていくのです。それは、『アナと雪の女王』におけるエルサの能力に置き換えられるものでもあります。人々が自分のコンプレックスに向き合う方法は様々です。「いい子ちゃんコンプレックス」のように周りに気づかれぬよう八方美人になる人もいれば、自分だけの世界に閉じ込む人もいます。積極的にその違いと向き合い、乗り越えようとする人もいれば、この違いを生かす人もいます。エルサの場合は、「一人の世界に閉じこもり、他の人に見られず知られず、いい子でいることDon’t let them in, don’t let them see, Be the good girl you always have to be, Conceal, don’t feel, don’t let them knowという歌詞にも表れる)」を強いられましたし、残念ながら彼女はそれが最善だと思って来ました。


 「アナと雪の女王(Frozen)」レビュー/分析(シリーズ)

 

 『アナと雪の女王』からディズニーアニメを考える

孤独なマイノリティであるエルサ

殻を破いたエルサの「Let it go」

雪だるまのオラフはなぜ夏に憧れるのか?

オラフの独り言に隠された意味

アナはなぜエルサのドアを叩き続けるのか

アナが夢見るのはロマンスではなく「受け入れられること」

「Love is an open door」に込められた二つの意味

トナカイ・スヴェンとクリストフの関係性

エルサはなぜアナを拒むのか@凍り付いた城

なぜトロールたちは「愛の専門家」なのか?

凍り付いた世界に「本当の愛(真実の愛)」を!

 


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孤独なマイノリティであるエルサ|『アナと雪の女王』レビュー②” への11件のフィードバック

  1. 普通や普通じゃないという言葉は実はよく聞く言葉ですね!
    普通じゃない=マジョリティではない。それだけのことなのに、この世界ではそんな少数派は悪とみなす考えが確かに根強く残っていると感じます。

    そもそも普通とは、なんなのでしょうか?そんなことを考えさせられました。人々それぞれ個性を持っているわけですから、どれが普通などとは一概には言えないものでしょう。

  2. […]   クリストフもエルサと同じようにマイノリティーの一人です。『アナと雪の女王』において、マジョリティーは夏のイメージで表れています。(「孤独なマイノリティであるエルサ」「オラフはなぜ夏に憧れるのか?」参照)彼は冬に属している人の中では珍しく冬の美しさを知っています。エルサが冬の美しさを知らず自己否定に陥っていたのとは違いますね。だからといって、クリストフがエルサより成熟しているとは言い難いです。クリストフは、冬の世界しか接したことがないように見えるからです。恐らく彼は家族もおらず、一人ぼっちです。友達と呼べるものは、トナカイのスヴェンしかいません。エルサがマジョリティーの中で生きるために自分を抑圧して生きるマイノリティーなら、彼は、マジョリティーの世界を知らずマイノリティーにとどまらざるを得ない人物なのです。 […]

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